第8話 じいちゃんが鍛えてくれたから

「トラップもあるね。まぁ、子供騙しみたいなものだけど」


 その建物内には、侵入者を阻むためのトラップがあちこちに仕掛けられていた。

 けれど、じいちゃんと一緒に攻略してきた凶悪な魔界の〝城〟やダンジョンなどと比べれば、どれも大したものではない。


 やがてエデルはその部屋へと辿り着く。

 隠蔽魔法によって入り口そのものが隠されていたが、エデルの目を誤魔化すことはできない。


 張られていた結界もあっさり抜けて、エデルは部屋の中へ。

 するとそこにいたのは、老婆と眼鏡美人だ。

 マリベル様、と老婆が呼ばれているので、どうやら彼女がじいちゃんの知り合いらしい。


 二人はエデルが入ってきたことにも気づかず、話を続けている。

 お取込み中のようだ。


 話が終わるのを待とうと静かにしていると、老婆の方と目が合った。


「なっ……何者っ?」

「え?」


 ようやくエデルに気づいてくれたようだ。

 やっと話ができそうだと思っていると、眼鏡美人が剣を抜いて威嚇してきた。


「あれ? もしかして警戒されてる? いや、僕はただマリベルって人に手紙を渡しに来ただけなんだけど……ええと、そっちのばあちゃんの方だよね?」

「ばあちゃ……マリベル様にその口の利き方は何ですかっ!?」

「いいのよ、シャルティア。それより、あなた、手紙というのは?」

「これだよ」


 ついに手紙を渡すことができて、ホッとするエデル。


「こ、これは……」


 中身を読んだ老婆が目を見開く。

 ちなみに手紙は封をしたままで、エデルは読んでいないため、どんなことが書かれているのかは知らなかった。


「……シャルティア。しばらく外してもらっていいかしら?」

「え? し、しかし……」

「彼と二人で話をしてみたいの。大丈夫。危険な相手ではないわ」

「……か、畏まりました」


 シャルティアと呼ばれた眼鏡美女が、訝しみながら部屋を出ていく。


「……エデル、というのね?」

「うん、そうだよ」

「先生の……ラミレス様の最期はどんな感じだったのかしら?」

「じいちゃんの?」


 ラミレスというのは、じいちゃんの名前だった。

 しかし、様、なんて付けられるとエデルには違和感しかない。


「死ぬ直前まで元気だったよ。あれは確か、死ぬ一か月くらい前だったかな? 一人でバハムートを討伐してたし」

「……そう。あの方らしいわね。って、バハムート!? そ、それは超S級の魔物よっ? 現れれば非常事態宣言が出されて、大規模な討伐軍が編成されるレベルのっ……それを死ぬ一か月前に討伐するなんて……」

「非常事態?」


 バハムートなんて、魔界だとしょっちゅう遭遇したものだった。


「一体、先生はどこにいらっしゃったの……? 二十年以上も音沙汰がなくて、でも、あの方のことだから死んでいるはずはないと思っていたけど……」

「魔界、ってところらしいよ」

「ま、魔界!?」


 老婆が椅子から転げ落ちそうになった。


「じゃあ、先生は本当に『奈落』を抜けて……さすがだわ。私たち四英雄が力を合わせても、あまりの難度に途中で引き返さざるを得なかったというのに……ちょ、ちょっと待ってちょうだい。だとしたら、あなたはどこで先生に……? 手紙にはあなたを拾って育てたと書いてあったけれど……」

「僕はその魔界で赤子の時にじいちゃんに拾われて、それから育ててもらったんだ」

「……失礼だけれど、あなた、人間よね?」

「そのはずだけど?」

「なぜ魔界に……?」

「僕にもよく分からないんだ。でも、じいちゃんが言うには、時々、人間界と魔界を繋ぐ穴が空いちゃうことがあるらしくて、運悪くそこから魔界に落ちてきたんじゃないかって」


 じいちゃんに見つけてもらえなかったら、すぐに死んでいただろう。

 そこはむしろ強運といってもいいかもしれなかった。


「幾ら先生が一緒だからって、よく魔界なんて危険な場所で育つことができたわね……? いえ、もちろん行ったことなんてないし、魔界がどんな場所なのか、本当に断片的なことしか知らないけれど……」

「確かに過酷な環境だったけど、じいちゃんが鍛えてくれたから」

「……さすがは先生ね」

「ていうか、ばあちゃん、さっきから先生先生言ってるけど、じいちゃんとはどういう関係だったの?」

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