第6話 余裕で突破できちゃう

「本当に全然動かなかったね」


 親切な門番に教えてもらった通りに山脈を超えていくと、目的のロデス王国に辿り着いた。

 マリベルというじいちゃんの知り合いは、その王都にある学校にいるらしい。


「あれが王都かー」


 かなり大きな都市だった。

 闇雲に探していては骨が折れそうなので、王都の城門を通るときに衛兵に訊いた。


「マリベルって人がいる、学校、とかいうのはどこにあるの?」

「マリベル様? それなら英雄学校だね」

「英雄学校?」

「次世代の英雄を育成するために作られた学校のことだよ。毎年、国中、いや、世界中から優秀な若者たちが入学のために集まってくるんだ」

「へえ」

「もしかして君も入学希望者かな? 残念だけれど、今は入学の時期じゃないよ」

「ううん、僕はただそのマリベルって人に会いに来ただけなんだ」

「マリベル様に? ははは、生憎とマリベル様には、学校の生徒でも滅多にお会いできないって話だからね。そう簡単にはいかないと思うよ」

「そうなの?」


 とはいえ、エデルには他に当てなどないのだ。

 もし会うことができないと困ってしまう。


「ま、とりあえずその英雄学校とやらに行ってみよう」


 衛兵から教わった場所に向かうと、延々と続く物々しい防壁が見えてきた。

 どうやらかなり広大な敷地を有しているらしい。


「これが英雄学校かな?」


 入り口の門を発見したので入ろうとすると、警報音が鳴り始めた。

 すぐに警備員らしき男たちが駆け寄ってくる。


「君、学校の生徒じゃないね?」

「え? うん、そうだけど」

「関係者以外は立ち入り禁止だよ」


 どうやらあらかじめ登録している者以外が通ろうとすると、警報が鳴る仕組みになっていたらしい。


「マリベルって人に会いに来たんだ」

「マリベル校長に? アポイントは取ってあるのか?」

「アポイント?」

「事前に会う約束をしているのかってことだ」

「いや、してないよ」

「だったら話にならないな。帰った帰った」

「じゃあ、今からそのアポイントを取ればいいのかな?」

「いや、それは難しいだろう。校長はお忙しいんだ。もう半年以上先まで予約でいっぱいって話だからな」

「半年?」


 もちろんそんなに待てるはずもない。


「それなら、この手紙を渡しておいてもらえないかな?」


 じいちゃんの知り合いだというし、読んでくれさえすれば何かしらの反応があるだろう。


「あのなぁ……」


 しかし警備員は呆れたように息を吐いた。


「知っての通り、校長はこの国、いや、世界が誇る英雄様なんだ。そんな手紙やプレゼントなんて、毎日山のように届くんだよ。当然、どこの誰が送ってきたかも分からないものなんて、危険すぎてお渡しできるはずもない」


 手紙を渡すのも難しいらしい。


「うーん、どうしたものかな……」


 ひとまず諦めて門から離れたエデルは、腕を組んで考える。

 こういうときにどうしたらいいのか、残念ながらじいちゃんは教えてくれなかった。


 とはいえ、ここにマリベルというじいちゃんの知り合いがいることは間違いないのだ。


「……立ち入り禁止、か」


 よくよく目を凝らしてみると、あの入り口だけではなく、この防壁にも魔法的な処理がなされているようだ。

 無理に中に入ろうとすると、また警報が響いて警備員が飛んでくるという寸法だろう。


「と言っても、ぜんぜん大したものじゃないね、これ。余裕で突破できちゃう」


 魔法を解析してみると、非常に簡単なものであることがすぐに分かった。

 この程度なら軽い隠密魔法を使うだけでよさそうだ。


 エデルは防壁を飛び越え、敷地内へと侵入する。

 警報が鳴ることはなかった。


 じいちゃんと一緒に幾つもの〝城〟やダンジョンを攻略してきたエデルだ。

 こうしたことはお手の物である。


「さて、問題はマリベルという人がどこにいるのかだけど……」


 敷地内には似たような建物が幾つもあって、まるで見当もつかない。

 だがしばらく構内を散策していると、あることに気が付いた。


「ん? ……あの建物、他よりセキュリティが厳重に施されてる? 何となくあそこが怪しい気がするなぁ」

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