第4話 おっそろしいダンジョンだな
「っ! 階段だ!」
ようやく次の層へと続く階段を発見して、俺、アレクは思わず叫んだ。
「これでついに三十層か……」
「ええ、ようやく目標にしていた階層に辿り着くことができたわね」
「ああ」
世界屈指の難度を誇る巨大なダンジョン『奈落』。
一説には、魔族が住む別世界――魔界に通じているというこの恐ろしいダンジョンに、俺たちは挑んでいた。
俺を含めて五人のメンバーたちで、それぞれが剣や魔法、治癒など、各分野のスペシャリスト。
それがこうしてタッグを組み、すでに一か月近くもこのダンジョンに潜り続けている。
正直ここまで至るのに相当な苦労を要した。
なにせ上層ですら危険度Aに相当する魔物がうじゃうじゃ徘徊しているという、とんでもない場所なのだ。
「食料やアイテムはちょうど半分。同じルートを戻るにしても、余裕を見てそろそろ引き返さないと。幸い目標に達したし、潮時じゃないかな」
「そうだな……しかし、本当に何階層あるんだ、ここ?」
「かの四英雄たちは五十層まで至ったと聞くわ」
「うえ、五十層か。あと二十層も」
「それも、ただのニ十層ではありませんわ。ここまでよりさらに難易度が上がるのですもの」
そう考えると、とんでもない話だ。
まぁ四英雄は今の俺たちでも手が届かない領域にいる、まさに神のような存在だからな。
「だけど、そんな四英雄ですら、まだ最下層には至っていない……」
「ほんと、おっそろしいダンジョンだな」
と、そのときだ。
ここまで静かに話を聞いているだけだったメンバーの一人が、何かに気が付いたように階段の下へと視線を向けた。
「……誰か、来る」
「っ! 魔物か?」
「いや、違う……この気配は……人間?」
「は?」
警戒していると、確かに人影が階段を上がってくるのが見えた。
「しょ、少年? あんな子供が、こんな場所に……?」
「しかも一人だわ……」
信じがたいことに、まだせいぜい十を少し過ぎたくらいの少年だった。
まるで散歩でもしているかのような、随分とラフな格好である。
「な、仲間は……?」
「……今のところ、気配はない……」
「本当に人間ですの? ああ見えて魔族なのでは……」
「見た目は人間だけど……化けてるって可能性もあるわね」
「……気配は間違いなく、人間……のはず」
普通に考えて、人間の少年がこんな下層を一人で歩いているなんてことはあり得ない。
俺たちが警戒をするのも当然だろう。
「人がいるってことは、そろそろ地上が近いと考えていいのかな?」
少年が俺たちを見ながら何やら呟いている。
「おい、少年! そこで止まれ!」
「……?」
「こちらの質問に答えろ。……お前は一人か?」
「ええと、そうだけど?」
「馬鹿な。たった一人でこんな階層まで来れるはずがない。ここは三十階層だぞ」
「三十階層? なるほど、あと三十階層なんだ」
あと三十階層?
何を言っているんだ、こいつは?
「質問に答えるんだ。どうやってこの階層まで来た?」
「どうやってって……普通に歩いて? いや、走ってかな?」
「あたしたちでさえ、ここまで来るのに本当に苦労したのよ。あなたみたいな子供が一人で、こんな階層まで来れるわけないじゃないの」
「そう言われても……」
困ったように頬を掻いている。
見たところ嘘を吐いているようにも、何かが化けているようにも見えない。
「……ダンジョンの外のことを、聞けばいい」
「なるほど。もし本当に彼が人間なら、外の知識を持っているはずだからね」
「それは妙案だな。……少年、最後の質問だ。このダンジョンがある国の名を答えてくれ」
誰もが答えられる簡単な問いのはずだった。
だが少年はきっぱりと言い切った。
「いや、知らないよ?」
「知らないわけがないだろう。このダンジョンに挑むなら、国の許可が必要だからな」
「そう言われても……。生憎と僕、この先の世界のことはまったく知らないんだ」
「どういう意味よ?」
少年のおかしな言い分に困惑する俺たち。
当然ながら警戒を緩めるわけにはいかない。
それからしばらく睨み合いが続いて、
「……ええと、じゃあ、行ってもいいかな?」
「「「……」」」
痺れを切らしたのか、少年が俺たちの脇を通り抜けていく。
いつでも戦えるよう身構えていたが、結局そのまま去っていってしまった。
「……何だったんだ、あいつは?」
「分かりません。ですが……」
「……只者じゃなかったね。闘気も魔力も全然感じなかったけど、あれは間違いなく隠しているパターンだ。相当な手練れと考えていい」
「じゃあ、一人でこんなところまで潜ってきたっていうの?」
あんな恐ろしい少年がいるなんてな……。
どうやら俺たちなんて、まだまだ井の中の蛙だったようだ。
そのときふと、俺の脳裏にとんでもない考えが浮かんだ。
……待てよ?
あいつ、そもそも下の階層から上がってきたわけだよな?
さっきの「あと三十階層」という言葉と合わせて考えたら――
「な、なぁ……まさか、とは思うんだが。あの少年……
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