92 森を歩いてみた 1
商店街を回った後は、半時ほど歩いて西の門を目指した。
街の外に出られるようなら、近くの森の様子を見ておきたい。
建ち並んでいた民家がまばらになり、畑の方が多くなってきた先に、木造の門が見えてきた。
衛兵らしい若い男が二人立っている。
「済みません、ここを出ても大丈夫でしょうか」
「おう、森が近いんで気をつけてな」
「最近領都に引っ越してきたばかりなんですが、ここの森には危険が多いのですか。できたらプラッツでしていたように、ノウサギを狩れたらと思うんですが」
「以前はオオカミがかなり多くて危険だったんだがな。数ヶ月前に大がかりなオオカミ狩りをしたんで、最近は少し安全になったはずだ」
門番は口々に、気さくな返事をしてくれた。
見る限り通行人もなく、暇を持て余しているのかもしれない。
こちら方面は旅行者なども少ない。山に至る途中に人里などはなく、山越えの細い径路で隣国に通じている程度ということだそうだ。
おそらく、その隣国からのめったにない旅人への警戒の他は、森へ出かける少数の町民に注意を呼びかける程度が任務なのだろう。
そう言えば以前、オオカミ狩りという話を聞いたな、と思い出す。
「オオカミ狩りですか。衛兵の皆さんが狩りをされたんですか」
「そうだ。俺たちも参加したぞ」
「僕の知り合いがそんな狩りを手伝ったと聞きました。トーシャというんですが」
「おお、お前、トーシャの知り合いか」
もしかすると知っているかと思ったのだが、当たりだったようだ。
聞くとこの二人、初めてトーシャがマックロートに出てきて剣の稽古を頼んだという際に付き合っていた中にいたらしい。
「こないだ久しぶりに会ったが、あいつずいぶん剣の腕を上げたらしい」
「ええ。僕はプラッツで知り合ったんですが、かなり魔物退治で修行したみたいです」
「そういう話だな。数日前にも魔物を探すと言って、ここを出ていったが」
「やっぱり、ここから山の方へ向かったんですか」
「ああ、あの西の山の方だ」
「やっぱり本当なんでしょうか、魔物が目撃されたっていうのは」
「ああ――トーシャの知り合いだというから話すが、広めないでくれよ。まだはっきりしたことじゃないんだ。山の奥まで入った奴が、遠目に見たことのない動物を見つけたっていう」
「見たことのないって、どんなのなんでしょう」
「どうも、トカゲのでかいやつって言うんだがな」
トカゲのでかい、というと、例のゴ○ラモドキを連想してしまうが。
どうもそれほどまでの大きさではないらしい。
体長二メートル程度、四つ足で地面に這い蹲っている、という外見だそうだ。
それもかなりの遠くから目撃しただけなので、何かの見まちがいということも十分考えられる。
「発見場所もかなり山の奥だというから、今のところこの近辺に危険はないと思う」
「トーシャが奥まで調査に行ったということだし、衛兵が数名、山の近くまで監視に行っているからな。今すぐどうということはないだろう」
「そうですか。それじゃ、そこの森の中なら普通の警戒でいいということですね」
「そうだな。まあオオカミはまったくいなくなったというわけでもないから、気をつけてくれ」
「分かりました、ありがとうございます」
衛兵二人に礼を言って、外に出る。
やや右手に森が広がり、左斜め方向へ隣国へ続くという細めの街道が延びている。
森に入って、しばらく歩き回ってみた。
どうも感触として、プラッツの北の森と比べて倍以上の大きさがあるのではないかと思われる。
ノウサギもかなりの数が走り回っている。
遠くかすかにだが、オオカミを示す『光』も一つ捉えられた。
あちらこちらに数種類の薬草も見つけられる。
まだ奥行の半分も来ていないのではないかと思われる辺りで、幅三メートルほどの川に行く手を遮られた。見回すと、少し左手、方角として西の方に丸太を三本束ねた格好の橋が渡されている。
西が山の方面で上流になり、川は森を横切って街の中まで流れていっているようだ。
丸太橋を渡って先に進むこともできるが、とりあえず手前の一帯だけで十分な数のノウサギはいそうだし、この川で解体ができる。
当面はこちら側の様子だけ把握していれば十分だろうと判断して、川を渡らずに上流へ辿ってみた。
十分ほど歩くと木立が少なくなり、草原に出た。
さらに数百メートル先から山地に入るらしい。プラッツの北の山より、近い印象だ。
山の手前側は岩地が多いように見える。
もし山の方から大きな魔物などが出てきても、西門から監視している限り、この草原の時点で見つけることができそうだ。
森の中で狩りをする者がいたとしたら、門番が警戒を報せてくれるだろう。
――まあ、プラッツの北の森と安全性に大差はないか。
そう判断して、川沿いに戻る。
途中でノウサギを二羽狩り、川辺で解体を行った。
内臓は土に埋め、肉だけをスースーの葉でくるんで麻袋に入れる。
袋を担いで戻ると、門番たちは笑って迎えてくれた。
「おお、見事ノウサギを狩れたのかい」
「ええ、二羽狩ることができました」
「この短時間で二羽は、たいしたものだ。弓矢も持たないのに、凄い腕だな。どうやったんだ?」
「そこは、企業秘密ということで」
「そうか。まあもっともだな」
「どうも、また今度」
手を振って、衛兵たちと別れた。
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