朝帰り



 ……俺は結局、朝まで四葉とやってしまった。

 いや、だって四葉が返してくれないから……。


 俺は帰りたかったんだ。

 帰ろうとしたんだよ。うん……。


「どうしよう……」


 今もう完全に朝だ。

 学校は、ない。文化祭の振り替え休日だからだ。


 だが問題は……夕月ゆづきだ。

 俺は彼女に何も言わず、家を出てしまった。


 おそらく俺がいないことに気づいてることだろう。

 そうなれば……どこへ行っていたってなる。


「……嘘つくわけにも行かないしな」


 かといって、開き直って他人とセックスしてきた、なんて言えるか?

 どう考えもぶち切れられるだろう。


 夕月ゆづきもまた束縛の強い女だからな。

 まいったな……どうしよう……。


 ぶー!

 ぶー!

 ぶー!


 ……そんなときに、ラインが来た。


【豚】


「みしろか」


 歩きながら、俺はライン通話にでる。


『おはようございますぶひ』

「ぶひって……豚かよ」

『はい! 醜い豚です!』


 ……なんかもう、過去のみしろはもういないんだって、思った。


「で、なんだよ? 今忙しいんだよ」

夕月ゆづきちゃん、怒ってないんで早く帰ってあげてくださいね』


 ……!

 ……みしろ、こいつ。


「なんで……それ知ってるの?」

『ゆづきちゃんと、ちょっと話したんで』

「そうか……」


 ……怒ってない、か。

 まるで俺が怒られるの、嫌がってること、知ってるかのような言い方だった。


『変に言い訳するんじゃなくて、思ったこと素直に行った方がゆづきちゃん、安心できると思います』

「いやでも……ムラムラしたから、他の女抱きに言ったって、そのまま言って良いのか?」

『ええ、そのほうが、ゆづきちゃんも納得しますから』


 そういうもんなのだろうか……。

 まあでも、みしろの言い方から、たぶん夕月ゆづきと話したんだろう。


 そこで確信を得たのだろう。

 つまりは、嘘じゃ無い。


「豚さ」

『おおほぉ……♡ な、なんれふかぁ~……♡』


 ……俺に豚って言われて感じてる。

 気持ち悪いなこいつ。


「なんでそんな、仲介役みたいなことしてるわけ?」

『それは……わたしがゆづきちゃんの、お姉ちゃんだから』

「姉……ねえ」


 姉として、妹の幸せをこいつなりに祈ってるのだろう。

 だから、サポートしてくれると。


「俺が他の女と仲良くしていいわけ?」

『ええ。わたしは、ゆづきちゃんと亮太君が幸せになるなら』

「そっか……」

『そしてわたしを都合のいいセフレ豚にしてくれるのでしたらそれ以上は望みませんぶひぃいいいいいいいいいいい!』


 俺は電話を切った。

 ラインをブロックした。


 そしてスマホの設定をいじって、みしろからの着信を拒否するようにした。


「ありがとな、みしろ。おまえのことは忘れないよ」


 そんなこんな思っていると、家に到着した。

 みしろからのアドバイスを受けて、俺は前に進む気になった。


 よし。

 俺は玄関の扉を開ける。


「た、ただいま」


 すると玄関先に夕月ゆづきがいた。

 俺を見て、笑顔になる。

 ……彼女の手には包丁が握られていた。


「お帰りなさい♡」

「お、おう……」


 ……俺、生きて帰れるだろうか。

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