気づく



 ……俺、飯田亮太は幼馴染の四葉とセックスして帰ってきた。


 そしたら義妹の夕月が、笑顔で出迎えてくれた。

 ……その手に包丁を持ったまま。


「お帰りなさい亮太君♡」

「ごめんなさい命だけは勘弁してください」

「どうしたの? 急に」


 だ、だって包丁を持って現れたんだぞ?

 粛正されるんじゃあないかって……思うよな?


 俺の片手はスマホに伸びている。

 すぐにでも110できるように……。


「あは♡ 朝ご飯の用意してただけですよぅ」


 夕月が笑顔で言う。

 あ、あれ……? 怒ってない……?


 俺が夕月をほっといて、ほかの女のとこへセックスして、堂々と朝帰りしてきても……お、怒ってない?

 よ、よかったぁ……ほぅ……。


「すぐに朝ご飯の用意しますから、お風呂入っててください♡ お湯湧いてますから」

「あ、ありがとう……」


 や、優しい……夕月がとても優しい。

 いやまあ、俺に対してはいつだって甘めだったけども。


 しかし今回は本気で刺されるかと心配しちまった。

 生きて帰ることができて良かった、らっきー……。


 俺が風呂場へ行く。

 当然のように俺の着替えが用意してくれていた。


 ドアを開けると、むわっと湯気が顔に当たる。

 湯を張っておいてくれたのだ。俺が帰ってきて、風呂には入れるように。


「…………」


 俺をこんなにも気遣ってくれる女の子にたいして、俺は……なにやってんだよ……ほんと……。

 湯船につかりながら俺は物思いにふける。


 そうだよ。

 俺にとって誰が大切なんて、決まってるじゃ無いか。


 いつだって俺のために何かしてくれる、優しい義妹のことが、好きなんだろう。

 だから、俺は文化祭のあの日、妹を優先させたんじゃあないか。


「悪い四葉……やっぱり俺……」


 俺は、夕月が好きなのかもしれない。

 だから……ごめん、四葉。

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