87話 夕月と学祭デート6


 お化け屋敷を出たあと、俺たちは保健室へとやってきた。


「亮太くん……大丈夫だよ……」

「そんな真っ青な顔で言っても説得力無いよ」


「でも保健室って文化祭の間だ、閉めてるでしょ。カギだってないし……」


 がちゃ。


「え? なんだって?」

「なんで亮太くんカギ持ってるの?」


「いや、先生に普通に頼んだらもらえた」

「諏訪先生ぇ……」


 あの人も結構しっかりしてそうで、そうじゃないところ多々あるからな。


 まあ申し訳ないが、夕月もつらそうだったし、使わせて貰おう。


 夕月は保健室のベッドに横になる。

 おれは氷嚢を作って、彼女の額に乗っける。

「つめたい……きもちい……」

「少し横になっとけよ」

「うん……」


 遠くから文化祭の音が聞こえてくる。肯定で行われてる軽音部の演奏とか、生徒や客達の喧噪が。


「笑わない……?」


 ふと夕月がそんなことを口にする。


「なにを?」

「……お化けが怖いだなんて。子供みたいって」


「なんだそんなこと……別に思ってないよ」


 それは本当だ。むしろ人間味が増したきがする。今まで夕月のことは知らないことが多かった。姉に対するコンプレックスとかも、最近知ったばかりだったから。


「おまえの弱いとこ知れてうれしかったよ」


 義妹は目を丸くし、ふっ……と笑う。


「……うなじと耳なのは、知ってるでしょ?」


性感帯からだのじゃくてんじゃねえよ」


 俺たちはしばらくそうしていた。

 やがて午後3時くらいにさしかかろうとしている。


「行って」

「え?」


「バスケ部のOBOG戦……もうそろそろでしょ?」


 確かにそうだ。でも俺は別にレギュラーじゃないのででる必要は無い。


 ……もっとも、四葉はでる。あいつは女子バスのレギュラーだから。


「いや、でもおまえ……さすがに……」

「いいよ。四葉ちゃん、亮太くんの応援楽しみにしてたし。いってあげてよ」


「いや……じゃあおまえは……どうするんだよ」

「ここで寝てるわ。元気になったらいくから、先行って」


 夕月は俺を行かせようとしている。

 四葉に対抗意識燃やしてる割に、こういうところで優しいんだな。


 四葉が俺がいないとつらい、と知っているから。


「…………」


 四葉のとこへ行くべきか、この場に残って夕月の面倒見るべきか。


 答えなんて、決まってる。


「行かないよ」

「え……?」


 夕月が、本気で驚いたように、目をむいていた。


「いや……でも……」

「そんな顔のおまえを置いていけないよ。四葉には、悪いけど」


 病人は置いて一人でなんていけない。


「行くなら二人でだ」

「…………」


 夕月が布団の中に顔をひっこめる。


「ど、どうした?」

「ごめん……ちょっと……泣いちゃうね」


 ぐす……ぐす……と彼女のすすり泣く声がする。


「うれしいよ……亮太くん……わたし……うれしい……」


 四葉、すまねえ。俺は……今の状態のこの子を、ほっとけないんだ。すまん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る