62話 先生のカウンセリング【先行版】



 四葉と多目的トイレでやりまくった。


 ちなみに乗鞍先輩からは本当に呼び出しくらった。


『レギュラーの戸隠とがくしが急に練習に来なくなったのだが、何かしらないか?』とのことだ。


 同じクラスだから聞きたかったのだろう。


 戸隠とがくしは、一度俺に突っかかってきて以降、からんでいない。


 あのときはみしろの攻撃? によってショックを受けていたみたいだが……。


 でも翌日には学校来ていたし、来なくなった原因と言われても心当たりがない。


 乗鞍先輩にその旨を伝えるとすぐに解放してくれた。


 何があったんだろうか、戸隠の身に。


 さておき。


 昼休み、俺は保健室の諏訪すわ先生に呼び出されていた。


「飯田君。ごめんね、文化祭の準備中なのに」


 諏訪 百合子。保健の先生。

 ショートカットに眼鏡をかけており、幼い見た目。


 だが体つきは豊かで、そのあやうい見た目が逆に庇護良くをそそると、男子たちから人気のある保健の先生だ。


「いや、別に。用事ってなんだ?」


 この先生に対して、俺は敬語を使わなくなっていた。


 確かに俺の方が年齢は下だが、やっている間は立場が完全に逆転する。そのノリで普段も敬語を使わないでいるのだ。


「とりあえず、座って。紅茶をいれるわ」


「お、おう……」


 保健室のソファに座って、先生が来るのを待つ。


 ティーカップを持って俺の前にやってきた。

 一口すすると、舌の上に甘みが広がる。


「あ、うまい……」

「でしょう。高かったのよこれ。さ、いっぱい飲んで。あ、おいしいチョコレートもあるのよ。食べる?」


「あ、ああ……」


 いつもなら、保健室はラブホでもたまり場でもないのよ、と注意する先生。


 だが今日はどうだ。

 なんだか妙に優しい。


 KAIDAチョコ(高いやつ)をポリポリと食べる俺をよそに、先生が深刻そうな顔で言う。

「飯田君。先生に隠してること……ないかな?」


「なんだよ、急に……」


 とても真剣な表情だった。

 まるでそう、罪を犯した生徒をさとす、先生のような……。


「あ、責めてるわけじゃないの。君を否定してるわけでもないの。そこは誤解しないで。大丈夫、先生は味方だから。どんなことがあっても」


 そっ……と先生が俺の手を優しく包み込んでくれる。


「人は過ちを犯すもの。でもそれでも罪は償える」


「だから何を言って……」


「飯田君。自首しよう」


「は……?」


 何を言ってるんだこいつ……?


 自首ってなんだ?

 意味が分からない……。


「飯田君。性欲が溜まってるなら溜まってるって、もっと早く言って欲しかったな」


「いや制欲溜まってるのあんたらだろうが」


 毎日空いてる時間ほぼセックスにつきあってるんだが……。


「でもね、小学生はまずいよ。さすがに……犯罪だよ」


 ……ここでようやく、違和感の正体に気づいた。


 先生もしかして……俺があいりちゃん……小学生とやったのだと、信じてるのか?


 いや、多分そうだ。

 犯罪(小学生とセックス)をした生徒(おれ)と先生、という図式なのだ。


 こいつ……あんなの信じやがって……!

 四葉は信じてくれたってのに!


「先生。あんたは誤解してる。あいりちゃんとはやってないんだ」


「罪は認めたくないものよね……大丈夫、わかるわ、君の気持ち」


「あんたも未成年とセックスしてるしな」


「ふぐぅう……」


 さっきまで頼れる先生感だしてたのに、いっきに砕け散ったな。


 そうである。未成年の俺と、成人してる先生。


 セックスしてるって知られたらそれこそ犯罪である。


「飯田君」

「おう」


「君は何も悪いことしてなかった。あたしも悪いことしてなかった。そうよね」


「急に自己保身に走ったぞこいつ……!」


 アナタの犯罪を見逃すから、自分の犯罪を見過ごせって言ってるようなもんだぞ!?


「いやまあ、俺はあいりちゃんとはマジでやってないんで」


「そ、そうなんだ……そうよね。飯田君、結構常識人だものね!」


 さっきまで信じてなかったのに、急に俺の話を鵜呑みにしだしたぞ……。


 よほど未成年おれとの淫行を黙ってて欲しいらしい。大人の女感ねえなこいつ。


「安心したわ。小学生とやっちゃうなんて、何か心に闇を抱えてるのかと思って」


「別に闇なんて抱えてねえよ。まあわかってくれてよかったけど」


 ほーっ、と先生が安堵する。

 まあちょっと不服だが、誤解が解けてなによりだ。


「じゃああいりちゃんとは何もなかったのよね?」


「いや……何もないってわけじゃないけど」


「え、何したの?」


 俺は風呂場での出来事を正直に話す。


 ひくひく、と先生が引きつった笑みを浮かべる。


「へ、へえ……。しょ、小学生に、ひ、ひとりえっちが興味あるからって、その子の前でやってみせたと」


「ああ、仕方なく」


「そしたら飯田君の出したあれであいりちゃんが発情しちゃって、ひとりえっちしだしたと」


「ああ、不可抗力で」


「そしたらエスカレートして飯田君のあれで、す、すま……×××して、ぜ、××××したと」


「ああ。今の子はませてるなどうも」


 先生はきゅっ、と手を握る。


「自首しよう」

「なんでやねん!」


「さすがにその嘘を信じられないよ、ファンタジーだもん……」


「そんなこと言ったら俺の股間も! あんたらの性欲もファンタジーじゃないかよ!」


 こいつ俺の話まっっっっったく信じてねえ!


「大丈夫。自首すれば罪は軽くなるから。合意の元であればワンチャンあるかもだから」


「だから話聞けって!」


 がしっ、と俺は先生の肩をつかむ。


「あーん」

「え?」


 先生が自分からソファに倒れる。


「だめよ飯田君そんな真っ昼間から先生をレ×プして無理矢理言うことを聞かせるなんてだめよだめだめー」


 ……ちょう棒読みだった。


 なるほど、そういうプレイに憧れてるのか。


 ……どっちが性欲溜まってるんだよ。ったく。


    ★


「飯田君は悪いにゃいにょぉ~……♡ あいりちゃんとは何もなかったのぉ~……♡ 先生は飯田君ごしゅじんさまの言うことをなんでも信じましゅぅ~……♡ あひぃ~……♡」


 ……ソファで夢見心地でつぶやく先生。


 ……あれ、俺なんか、クズ男みたいになってない?


 罪を犯した生徒を、更生させようとした先生。


 先生と無理矢理やって、言うこと聞かせてる……みたいな。


 い、いや……俺はクズ男じゃない。俺はまともだ。まとも……だよね?

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