53話 元カノを好きな男子【先行版】




 文化祭の準備中、俺はクラスメイトから呼び出された。


 廊下の、人気の無い場所までやってきた。


 俺の前に居るのは、同じバスケ部に所属する……戸隠とがくし


 背が高くイケメンで、うちのレギュラー。


 俺の通うアルピコ学園はスポーツ有名校。

 そこでレギュラーになれるくらいには、バスケが上手い。


「で? なんだよ、戸隠とがくし。話って」


 ぎろり、と戸隠が俺をにらみつけてくる。

 どうにも好戦的じゃないの。


「おまえ……梓川あずさがわさんと、どういう関係なんだよ?」


「は?」


 みしろとの関係を、なぜこいつが気にしてるんだ……?

 

「どうって……?」

「おまえら別れたんだろ?」


「まあな」

「なのに……なんでまだ、てめえは梓川さんにつきまとってるんだよ? なあ?」


 いらだちげに、戸隠が俺に言う。

 その瞳には俺に対する怒りが見て取れた。


「つきまとってるだって……?」

「そうだろ? 昼休みも放課後も、なんでおまえ、梓川あずさがわさんと一緒にいるんだよ?」


 彼は俺をにらんで言う。


「目障りなんだよ」


 ……ああ、なるほど。

 こいつ、みしろのことが好きなのか。


 だからあいつの周りにいる俺がうざいのか。

 ははあ……。


「物好きモノいたもんだな」


 あんなセクモンと付き合いたいなんてよ。

 ……自分で言っててちょっと悲しくなった。

「ああ? ケンカ売ってんのかてめえ!」


 戸隠が俺の胸ぐらをつかむ。


「熱くなるなって」

「うるせえ! いいからつきまとうのやめろって! ここで誓え!」


 戸隠からすれば、意中のみしろの周りに、別れたはずの彼氏がうろちょろしているように見えるのか。


 それは、俺がみしろのことをまだ忘れられないから、と、そう思ってるんだな。


「おまえは一つ勘違いしてるよ」


「勘違いだと!?」


「ああ。別に俺がみしろにつきまとってるわけじゃない」


 俺はみしろと別れた。

 今の俺とあいつとの関係は、恋人でもない。

 単なる……セフレ、というかご主人様と性奴隷のような、そんなインモラルな関係だ。


「あいつが俺につきまとってんだよ」


「言うに事欠いて……おまえみたいなのになんで梓川あずさがわさんが、天使が執着するんだよ!」


「天使って……おまえそのあだ名使ってるの、おまえだけじゃね?」


 天使だった頃のみしろは、もういない。


 クラスの中でも、みしろの評価は変わっている。


 ……けれど、こいつは。

 みしろのことが好きで、盲目になってる訳か。


「うるさい!」

「やめといたほうがいいぞ。みしろは。苦労するのはおまえだし」


「黙れ!」


 と、そのときだった。


「何してるんですか!」


「! あ、梓川あずさがわ……さん」


 振り返ると、そこには梓川あずさがわみしろがいた。


 どうやら正気に戻ったのだろう。


「こいつが用事あるってよ」


 俺は戸隠から離れる。


「用事……?」

「おまえのこと好きなんだとさ」


「おま……飯田ぁ……!」


 誤解はさっさと解いた方が良い。


「戸隠くん……好き、なのですか、わたしのこと?」


 みしろに問われて、戸隠は動揺する。「あ、いや……その……」とか。さっきまでの威勢はどこへいったのだろう。


 というか、イケメンのくせに、なんだその童貞みたいなリアクションは。


「ごめんなさい、それは無理です」


 みしろは、きっぱりと、戸隠にお断りする。

「な、なんで……?」

「あなたでは、わたしを十分に満足させてくれないからです」


 フッ……とみしろが戸隠……じゃなくて、戸隠の股間を見て、馬鹿にするように笑った。

「そんな貧相なものでは、わたしは満足にいかせられませんよ」


「い、いか……?」


 みしろの本性を知らないからか、彼は動揺していた。


「悪いですが亮太君レベルのものをもってないと、わたしはお付き合いする気はありませんので」


「も、ものって……?」


「×××です」


「なっ!? ち、×××?」


「ええ、×××です」


 ……なんだこの会話。


「あなたのようなポークピッツでは到底満足できません。それでわたしの奥まで届きますか? 届きませんよね?」


「おまえどうして、戸隠のがわかるんだよ?」


「わかりますとも。服ごしでも、その大きさは」


 なんだその特殊能力……。


「満足にいかせられないような小指×××では付き合う気にはなれません。その程度の粗末な爪楊枝で満足してくれる女にしてください」


「…………」


 戸隠は、絶句していた。

 そりゃそうだ。憧れの女が、こんなこと言われて、しかもあそこのサイズを非難されちゃな……。


「大体亮太君に勝てるとでも思ったんですか? 彼の×××はエッフェル塔……いや、東京スカイツリーなのです。体力だって精力だってあなたとなんて比べものにならない……」


「あー、もうそれくらいにしてやれ」


 戸隠が暗い顔をして「嘘だ……おれの天使が……うそだ……」とつぶやいている。


 お気の毒に……。


 だがからんできたのはおまえだからな。


「ほら、いくぞ」

「はい♡ ごしゅじんさまぁ~♡」


 目に♡をうかべたみしろが、俺の後ろからついてくる。


 戸隠は自信を失ったように、うなだれて、その場で「うそだ……」と繰り返していたのだった。合掌。

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