11話 ゴム買いにいって、親友に見つかる



 義妹、夕月ゆづきとついに肉体関係を持ってしまった、翌日……。


「おはよ」


 俺の体にしなだれかかって、夕月がすりすり……と頬ずりしてくる。


 なんて、甘ににおい。なんて……柔らかい体。


「ね……亮太くん。今日は部活、お休みでしょう?」


 日曜日。

 部活は珍しくない。


「なら……ね?」


 綺麗になった、シーツを見て……俺は冷静になった。


「なあ……避妊具、買ってきていいか」


 理性が飛んでいたとはいえ、今から赤ん坊を作る覚悟はなかった。


「……? どうして、そんな余計なものを?」


 夕月ゆづきが不満そうに言う。


「ほしいの……亮太くんの赤ちゃん……♡」


「それは……駄目だろ。まだ……さすがに……」


「………………うん。わかった。我慢します」


 俺は立ち上がって、服を着る。


「どこに?」

「コンビニ」


「私が行ってくるよ?」

「……ばか。行かせられるかよ」


 さすがに避妊具を女にパシらせるわけにはいかない。


「はぁ……♡ 亮太くん……好き……♡」


 俺は財布を持って部屋を出る。


「……すぐ、帰ってくる」


    ★


 家からほど近いコンビニへと行ったのだが、売り切れていた。


 しかたなく、駅前の薬局まで行く羽目となる。


 駅前の、バスケットゴールのある公園を横目に、俺は薬局へと到着。


「どれを買えば良いんだ……」


 薬局について避妊具のコーナーはすぐに見つかった。


 だが逆に種類豊富すぎて、何を買えば良いのかわからない。


「…………」


 あんまり、長居したくない。

 知り合いにこんなもの、買ってる姿を見られたら、どう言い訳すりゃいいんだ。


 義妹とのセックスのために買いました、なんて死んでも言えないしな。


「これでいいか……」


 サイズがわからなかったので、適当に数種類手に取る。


 ……別に、夕月ゆづきとたくさんしたいから、たくさん買ったわけではない。


 単にサイズがわからなかったからだ、それ以外に、他意はない……はず。


 俺はうつむき加減で、そそくさとレジに並ぶ。


 レジの人とも会話は最低限だ。

 あまり見られたくないし、何も言われたくない。


 俺はさっさと会計を済ませて、うつむいたまま、早足で出て行こうとした……。


 そのときだ。


 どんっ。


「きゃっ!」


 どさっ、と目の前で誰かが倒れる。


 俺がぶつかってしまったようだ。


「す、すみま…………!?」


 そこに居たのは、俺の親友、贄川にえかわ 四葉よつばだった。


「あいたたた……もー、りょーちんどこみてんだよー」


 よいしょ、と四葉が立ち上がる。


「わ、わるい……」

「ま、驚かせよーって思って近づいてたあたしも悪いか。すまね、どーも」


 ……やばい、やばいやばいやばい。


 がさっ、と俺は後ろ手に、袋を隠す。


「お、おまえ……なんでここに?」


「駅前のバスケコートで、五和ちゃんと真琴ちゃんと自主練してたの。で、喉が渇いたからポカリを買いにきたってわけ」


 くそっ! 駅前に来たのはまずかった……!


 こいつら部活がなくっても、公園にある無料のバスケコートで、練習するような奴らだった!


「そ、そうか……じゃあな」

「まーまー待ちなよ」


 四葉が俺の手をつかむ。


「な、なに……? 急いでるんだが」


「一緒にバスケしない? 人数たりてなくってさ。3人で奇数だし。りょーちん入れれば4人で2-2ができるしさー」


「あ、いや……俺はちょっと……用事が……」


「そんな寝間着姿で?」


 スウェットに寝癖ボサボサの姿、どう見ても起きがけであることはばれてる。


 まずい……。


「ほらほら、どーせ日曜日もこんな時間まで寝てて暇だったんでしょ? 一緒にバスケしようぞー」


 無邪気な笑みを浮かべる四葉。


「いや……ごめん」

「あ、そう……無理強いはしないけどさ」


 四葉が手を離してくれる。


 ホッ……。


 よし、さっさと逃げるに限る……。


「あ、なんか落ちてるよ………………って、え?」


 ぽかん……と四葉が口を開く。


 振り返ると、袋から落ちた避妊具の箱を、四葉が持っていた。


「!」

「え……? りょーちん……え?」


「わ、悪いな。これは、その……頼まれてよ!」


 我ながら苦しい言い訳だった。

 誰に頼まれたんだよ、誰に。


「あ、え? でも……え? 梓川あずさがわさんとは別れたって……え?」


 困惑する四葉。

 だよな、彼女がいないはずの俺が、こんなの使うわけがないって、困惑してるんだろう。

「あ、梓川あずさがわは関係ないよ。これは……」


 これは……何のために使うのか?


 正直に話せるわけがない。

 義妹と、夕月ゆづきと、使うんだって……。


「と、とにかく、その……親戚の兄貴に、頼まれてさ。だから……そういうことなんだよ」


「あ、え……そ……う、なの……? そう、なん……?」


「あ、ああ。だから今日のことは、秘密にしててくれな」


「え、あ、はい……」


 ……いやに素直に、四葉がうなずいた。

 こいつ、結構この手のゴシップとか好きなはずなのだが。


「そ、それじゃ……」

「あ、りょ、りょーちん……」


 四葉が俺を引き留める。


「こ、恋人とか……いないん、だよね?」


 そりゃ、気になるか。

 避妊具なんて持ってたら。


「ああ……いないよ。今は……」


 夕月ゆづきとの関係性を、なんと言えば良いのかわからない。


 兄妹を超えてしまった。

 恋人では、ない。


 なんていう間柄かわからず……結局、そう答えてしまった。


「……そ、っか。わかった……。うん、わかった……じゃあね」


 俺はそそくさと四葉から離れる。


 ……危なかった。

 いや、でもこれ……ばれたか?


 でも……わかるはずがない。

 まさか、義妹と使うだなんて、思ってないだろうし。


「……りょーちん」


 四葉がなんだか切なそうに、そうつぶやくのだった。


 そして俺は家へと戻ってくる。


「亮太くん♡ おかえり……♡」


 夕月ゆづきが笑顔で俺を出迎えてくる。


「すんすん……。……亮太くん、もしかして、女と会ってた?」


 ……なぜ、わかる?

 どうして……?


「だれ?」

「……同級生だよ。偶然薬局で会ったんだ」


「ふーん……そっかぁ」


 俺が玄関から上がろうとすると、ぐいっ、と腕を引かれる。


 夕月ゆづきが俺の胸板に手をついて、ぎらついた眼を俺に向ける。


「ダメだよ、亮太くんは、渡さない」


 真剣な顔つきで、夕月がいう。

 

「他の女と寝てもいいよ。でも心は譲らない。絶対誰にも譲らない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る