12話 親友のねんざ、保健室で二人
ある日の部活の最中にて。
「痛っ……!」
「
体育館でバスケの練習をしている。
男子と女子は合同で練習することが多い。
コートの端っこで、俺の親友……
「へ、平気だって……いっつう……!」
「アイシング! 氷もらってきて!」
女バスのキャプテンが一年に指示を出す。
俺や他の部員達が四葉の元へ駆け寄る。
「あ、あはは……大袈裟だってみんな。動けるし……いっつ……」
「バカ! 足ぐねったんだから動くな!」
キャプテンに言われて四葉が大人しく黙る。
「保健室に四葉を連れてこう。男子、誰か手ぇ貸して……!」
女バスキャプテンに言われて、周りの男どもが、鼻息荒く言う。
「はいはいっ! おれおんぶしまーす!」
「ばっかおめえ、
確かに四葉の胸はほどほどにでかい。
足を捻挫して、おぶってくとなると、なるほど、あの大きな胸を触ることになる。
「はぁ!? べ、別に胸とかかんけねーし」
「緊急事態なんだからおれがいくよ! おんぶ、なんだったらお姫様だっこでも」
「下心見え見えなんだよバカぁ!」
……人が怪我してるってのに、バカな奴らだ。
「四葉。ほら、乗れ」
「え……?」
俺はすぐに四葉を負ぶって、持ち上げる。
背中にいろいろ当たるが、まあ別に。
「俺、こいつおぶってきますんで、キャプテンは先に行って先生に知らせといてください」
「え? あ、うん……わかった!」
女子バスキャプテンが離れていく。
一方で残された男子たちが俺を茶化す。
「おいおい飯田ぁ……なんだ真っ先におんぶしてよぉ」
「そんなにおっぱい触りたいのかよぉ」
……はぁ。まったく。
「別に」
胸なんて、別にな。
ここで触らなくても、家じゃ飽きるほど触ってるし。
「飯田」
「乗鞍先輩……」
男バスのキャプテンが俺の元へやってくる。
背が高く、イケメンだ。
「
茶化した男子達をあつめて、乗鞍先輩が端っこへ行く。
「……緊急時に、仲間が怪我したってのになんだあの態度は。ふざけるのも大概にしろ。そんな意識でスポーツマンを名乗るな」
先輩がしかってくれてるので、まあそっちは任せよう。
俺は四葉を負ぶった状態で体育館をあとにする。
「…………」
四葉は無言だった。
俺は階段を降りながら問いかける。
「すまんな、痛いだろ」
「……うん。マジ痛え」
「だよな。悪いな、バカどものせいで無駄な時間くっちまってよ」
「……いいよ。りょーちんのせいじゃないし」
俺は四葉を連れて、一度体育館を出る。
その間こいつは一言もしゃべらなかった。
校舎に到着し、保健の先生に四葉を任せる。
「俺、一階戻って着替えとかバッグとか持ってきます」
ベッドに座る四葉が、俺を呼び止める。
「あのさ、あんがと」
「おう。まあ、大人しくしてろな」
俺は保健の先生に四葉の治療を任せ、いったん体育館へ戻る。
「飯田、お疲れ」
「
ハンサムなキャプテンが体育館の下駄箱で待っていた。
その手にはスポーツバッグが。
「これ、
……俺が頼む前に、この先輩は先んじて用意してくれてたらしい。
「
「そこまで手配して……ありがとうございます」
「なに、部長の仕事だから気にしないで。ほら……行ってあげて」
乗鞍先輩に頭を下げて、俺は出て行こうとする。
「そうだ飯田。さっきのおまえの行動、とても偉かったぞ」
振り返ると、乗鞍先輩が微笑んでいる。
「誰よりも早く、口じゃなくて行動に移す。簡単なようだけど実行するのは難しい。おまえはすごいやつだよ」
別にたいしたことしたわけじゃないのに、褒められてしまって、ちょっと気恥ずかしかった。
「……そりゃ、どうもです」
俺はペコッと頭を下げて先輩の元を離れる。
校舎へと向かい、保健室へ入る。
「四葉、大丈夫か?」
「うん、おかげさんで」
ベッドに四葉だけが腰をかけてる。
「先生は?」
「職員室。治療は終わってるよ」
「あ、そう。ほら、着替えとかバッグ」
「どーもどーも」
俺は四葉の隣にバッグを置く。
正面のベッドに腰を下ろして、四葉の素足を眺める。
「足、どうだって?」
「捻挫。2ヶ月くらいはかかるかもってさー。まじかー」
「そっか……まあ、ウィンターカップまでには治りそうで良かったじゃん」
ウィンターカップとは冬の全国大会のようなもんだ。
12月の下旬に行われる。
今は9月中旬くらいだから、まあ間に合うだろう。
「良くないよ。2ヶ月もバスケできないんじゃ、暇持て余すよ」
ぶらぶら、と無事な方の足をぶらつかせながら四葉が言う。
「彼氏でも作れば?」
「あほか。あたしみたいなのに彼氏なんてできるかっつの」
「そうか? 普通に美人だし、体も引き締まっててスタイルいいし、すぐ作ろうと思ったらできるんじゃないの?」
俺は思ったままを口にした。
だが四葉は黙ってうつむいてしまう。
「……あの、さ」
「おう」
「……なんか、りょーちん、雰囲気変わったよね」
唐突に彼女が言う。
うつむいたまま、なぜか手で髪の毛を触りながら。
なぜか……俺に顔を見られないように、しながら。
「そうか?」
「うん。2学期から、まるで別人みたいになったよ。大人になった、っていえばいいのかな」
……二学期からいろいろあったからな。
親の再婚とか、あとは……
「りょーちん、ほら、他のバカな男子たちみたいにさ、がっつかなくなったじゃん」
「がっつかない?」
「うん……ほら、男子ってさ、走るたびにお尻とか、胸とかさ、ガン見してくるじゃん? 今日だって誰がおんぶするとかで揉めてたし。ガキみたいにさ」
確かにあれはガキっぽかったな。
「でも……最近のりょーちんは違う。前はちょいちょい見てきたけど、最近は全然だし。おんぶしても、別にいやらしいさわり方しなかったし。……なんで?」
なんで、と言われても……。
別に胸なんて、家に帰れば嫌というほどみれる。
だから別に、四葉でセクシャルを満たす必要は無い。
「……もしかして、さ。こないだの、その……ゴム。ほら。あれ……さ。使ってる、とか?」
……先週、俺は四葉に、コンドームを買っているところを目撃された。
あれ以降、特に四葉は追求してこなかった。
……だが、少し意識されているのは気づいていた。
毎週月曜日になると、俺のとこに週刊少年マガジャンを読みに来るのに、今週はこなかったし。
なるほど、ずっと聞きたかったのか。
「おまえには関係ないだろ」
別に俺が使ってるか否かなんて、この場において全く意味の無い話だ。
「そ、だね。てっきり梓川さんに使ってるのかなって思ったけど、別れたんだもんね」
「まあな」
「やっぱり、りょーちん変わったね。別人みたい。なんか、大人びて、なんかその、ちょっとカッコいい」
カッコいい?
俺が?
「ねえ、新しい彼女、いるでしょ?」
唐突にぶっ込んでくる四葉。
「いないよ」
「あ、そ。じゃあ義妹ちゃんとどういう関係なの?」
じっ、と彼女が俺を見つめてくる。
さて、どうするか。
セックスをする関係ではある、義妹でもある。
でも恋人関係では決して無い……とは思う。
「ただの、兄妹だよ」
……だが、彼女は決定的な発言をする。
「えっちなことしてるのに?」
……しばしの、沈黙があった。
黙ってしまったのが駄目だった。
相手に、ばれてしまった。
「あそっかぁ、やっぱやってたんだー」
「なん……で?」
「昼休みになると、必ず教室で、5階の多目的トイレ行くでしょ?」
この学校には多目的トイレと言って、車椅子の人でも使えるようなトイレが、いくつかある。
一番人気の無いのが、5階のトイレだ。
「義妹ちゃんがいなくなったあとに、りょーちん必ず、そこのトイレに入っていくじゃん?」
「……見てたのか」
「まあね」
「つーか、そもそもなんであと付けた?」
「気になるじゃん。……好きな人のことなら」
「え?」
「なんでもないよっと」
……確かに。
四葉が言うように、俺は
前にあいつから、昼休みに呼び出されたのだ。
俺は断りきれず、やってしまった。
以降も、呼び出されては、ズルズルと行為を重ねてる。
いつかバレるかもと危惧していたが。
……まさか、親友につけられてとは。
「義妹ちゃんとは、付き合ってるん?」
俺が妹とやってるって知ったのに、四葉の表情には、嫌悪感のようなものは見られない。
頬が赤かった。
「いや、付き合ってないよ」
「でもやってるんだ。あのときのゴム使って?」
「いや……もう無い」
「あんな買ってたのに、もう使いおわったんかい。ふーん」
しばし、無言。
俺が妹とやってると知って、彼女は何を思ってるんだ?
「ね、りょーちん」
小さく、四葉がつぶやく。
「お願い、あんだけどさ」
頬を赤く染めながら、俺の眼を見上げて言う。
「あたしとも……さ。してくれない?」
少し照れつつも、妙に早口でいう。
「義妹とできるなら、
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