10話 初めて



 風呂から出たあと……。


 俺は、腰にタオル1枚巻いた状態で、ベッドに腰を下ろしていた。


「…………」


 風呂場で、俺は義妹の夕月ゆづきとキスをした。


 ……キスを終えたあと、夕月がささやいた。


『……亮太くん♡ 先に出て待っててね』


 振り返ると………………。


 俺は……呼吸を忘れていた。


 彼女はバスタオル一枚で俺の前にいたのだ。


「…………」


 喉が、異様に乾く。


 どきどきと、心臓が高鳴る。耳から心臓が出てしまいそうだ。


「ただいま♡」


 彼女の言葉に返事ができない。


 俺は……彼女の体を凝視している。


 夕月がうれしそうに笑うと、俺の隣に腰を下ろす。


 やばい、やばい、やばい……。


 肌……きめこまかい。

 どうなってるんだこれ。シャワーのあとだからか、肌には水滴が付着している。


 真っ白で、すべすべしてそうで……。


 思わず、触りたくなる……どんなさわり心地してるのだろう……?


「…………」


 俺は、余計な言葉が出てこなかった。


 何かを言う余裕がない。


「大丈夫だよ、亮太くん……♡」


 夕月が顔を近づけてくる。

 綺麗な、顔だ。


 大きな目。みずみずしい、ピンクの唇。


 顔より胸のほうが大きいなんて、どうなってんだよ。


 ふわふわの茶色の髪の毛は子犬みたいで、触りたくてしょうがない。


 すりすり、と夕月が俺の手をなでる。


 じわじわ……と暖かさが彼女から伝わっていく。


「緊張してるんだね? わかるよ……だって義妹だもんね? 家族だもんね。倫理的に、いいのかなって、思ってるんだよね?」


 ……ああ、どうして。


 おまえは、どうしてそこまで、俺の心の中を知ってるんだ?


 俺の顔にでも書いてるのか?

 

「誰かに後ろ指指されるかもしれない。家族同士でセックスなんて、不純だ、不潔だって……言われるかも知れない。だから……怖いんだね?」


 ……そのとおりだった。


 俺は飢えた獣から理性ある人間につなぎとめているのは、倫理観。


 世間一般の意見。


 誰かからの、批判。


 そして……。


「怖いんだね。……女の子に、拒まれるのが」


 ……ああ、そうだ。


 その通りだ。


 俺は一度、元カノみしろから拒絶されたことがある。


 女に拒まれてしまったことが、最大のブレーキになってしまっていた。


「大丈夫だよ、亮太くん♡」


 夕月が怪しく微笑むと、俺のことを抱きしめる。


「私は……否定しないよ♡ あなたの全部を受け入れるよ♡」


 彼女が抱きついたまま、耳元でささやく。


 彼女の甘いと息が耳に拭きかかるたび、頭のなかから雑念が消えていく。


「世間一般が亮太くんを批判しても、私は絶対に批判しない」


 夕月が俺から思考を奪っていく。


 考える、という行為を奪われると、欲しいという衝動だけが残る。


 俺の体震えて、どきどき、ばくばく……と心臓が高鳴る。


「亮太くん……ね? 何も考えなくて良いんだよ」


 夕月が顔を離して、ベッドの上に、横になる。


「難しく考えないで♡」


 夕月が両手を俺に向ける。


「…………」


 ああ、そうだよ。

 あいつの、みしろのことなんて、もうどうでもいいじゃないか。


 あいつは、俺を捨てたじゃないか。

 何をいつまでこだわってるんだよ。


 もう、終わったんだ。

 もう彼女との関係の糸は断ち切れたんだ。


 向こうが、切ったんじゃないか。

 ならもう……。


 俺は……。


夕月ゆづき……!」


 もう、止められなかった。


 白眼を向いている彼女が可愛くて、その唇に、俺は自ら唇を重ねる。


 …… 俺はもう、抜け出せない。

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