第2話

工場長の阿部さんは、私より一回り年上で社長と同じ年、社内で一番のベテランだ。頼りないけど。

190cm近い身長をもっと生かせないのかと言いたくなるほど、気が弱く私生活もだらしないところがあった。

でも、阿部さんも悪い人じゃない。周りに気を使ってくれるし、話しやすいのでお客さんにも好かれている。


「阿部さん、それ昨日の弁当っスよ!!」

「えっ!ほんと?んー、まぁでもいいよ。

今の時期なら、まだ傷んでないと思うし、食べた感じも大丈夫だし。」

休憩用の部屋の阿部さんの席に、昨日のお弁当がそのまま残っていて知らずに、阿部さんが食べてしまった。

小谷さん、よく気付いたな・・・

私は、まったく分からなかった・・・

お昼のお弁当は、業者が毎日届けてくれているが、昨日、阿部さんは忙しすぎて食べれてなかった様なのだ。

とんだブラック企業だ。

工場の一番若い子がお昼の準備と片付けを担当しているが、そういえば今日は休んでいる。


阿部さんは過去に二回、飲酒運転で事故を起こしている。まだ今ほど飲酒に厳しくなる前だったので、免許取消などにはならなかったようだ。二回とも無保険だったので、社長が代わりにお金を出して解決したと聞いた。

社長は面倒くさいところはあるが、男気があるからな。ちょっと元ヤンぽいし。もと長距離トラックドライバーだし。

二回目の事故で、さすがに阿部さんは自動車保険に加入したようだ。

お酒はやめていない。

懲りろ。

糖尿病が怖くないのか?阿部さんは、私が入社するほんの少し前に目の手術から退院したばかりで、詳しい病名は知らないが、失明の危険があったらしい。

生命保険にも加入していなかったので、社長が手術代を出した。

阿部さんは、多分、そこらのキャバ嬢より社長からお金を引き出している。

この体験で、阿部さんは生命保険に加入した。毎回、遅すぎる。

先手を打てと言いたい。


阿部さんには、左手をポケットに入れる癖がある。彼の左手には中指、薬指、小指がなかった。従業員は、誰もその理由を知らないが、付き合いの長い社長だけは知っているらしい。

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