【第34話】不思議なメイドさん?

 そんな形で情報交換を終えたのが、およそ一月前のことだ。

 それからアルヴィース号はドナが集めた情報を下に潜伏場所を決め、常時隠蔽魔法を使って身を隠しながら、戦力の充実を図っていた。


「敵本隊から数グループの艦が進発したニャ。今日も今日とてアルヴィース号の捜索に出向いたようなのニャ」

「まーた見当違いの方向探してるんだー。バカだよねー。エルたちは一ヶ月も前から目と鼻の先にいるっていうのにー♪」

「灯台もと暗しということわざに倣って潜伏場所の候補にあげましたが、まさか採用されることになるとは――」

「ドナの大胆な発想には驚かされたけど、良い案だと思ったしね。ここなら相手の動きも詳しく把握できるし。ただ……父上に見つからないでくれと祈る必要はあるけれど」


 可能な限りこちらからアクションを起こすことはせず、静かに潜伏しているとは言え、父上の持つ戦場の勘は侮れない。

 今のところ、父上が自ら前線に立つことはないみたいだから、今しばらくは大丈夫だとは思うのだが……というか、そう思いたい……!


「それはそうかもしれませんが……まさか一ヶ月も討伐艦隊本隊のすぐ傍に潜伏することになるとは考えもしませんでした……」

「っていうかあいつらほんとバカだよね。ソールたちを探す索敵部隊をあっちこっちに派遣してるのに、自分の周りは一切、索敵してないんだから」

「指揮官が無能。バカでアホで大マヌケ」

「あ、ははっ、マーニさん、辛辣です……」

「でも正しい評価。敵本隊の配置を観察していれば分かる。ジャック様のパパ上は指揮系統から排除されてる」

「だねー。でもまあ、パパさんの立場を考えればそうなっちゃうのは仕方ないんじゃないー?」

「それはそう。でも有能な将を扱い切れてない指揮官は、やっぱり無能だとマーニは思う。……と。リリア、状況確認。試験運用していた輸送ドローンが戻ってきた」

「あ、はい。魔力探知発動します。……はい、こちらでも輸送ドローンの存在を感知しました」

「試験運用で送り出した、マーニが作ってくれた輸送用小型ドローンがもう戻ってきたのか。さすがに早いなぁ」

「はい、あと少しで拠点に帰還予定です。みんな無事に戻ってきてくれると良いんですけど……」

「大丈夫。空間魔法で搭載量を増大させたあの小型ドローンは、常時、隠蔽魔法が発動している。自動転移のシステムさえ正常稼働していれば必ず無事に戻ってくる」

「マーニさんが言うならきっと大丈夫ですね。良かったぁ……」

「これが成功すればクリムゾン商会からの補給の問題もクリアできるねー。輸送ドローンが持って帰ってきた資材を使って、攻撃用の小型ドローンを量産できれば準備完了ってところかなー」

「まだまだやることはたくさんあるけどな。それが済めば――」

「いよいよ決戦、ってワケだねー」

「ジャック様。パパ上との戦闘はどこまでする予定?」

「ストロング・ザ・ビッグ・ドレイクを撃沈させるつもりでいかないと互角には戦えないと考えてるよ」

「ん。了解。ならその心づもりでいる。じゃあマーニは戻ってきた艦の物資で建造作業を再開する」

「うん、頼む。ところでソールの方はどうだ? ガンドたちの練度は上がってる?」

「空間騎兵用兵装改め戦闘機兵アームドレスの方も仕上がりは順調だし、パイロットの慣熟は順調だよー。ソールからすればもっと訓練したいところなんだけどねー」

「いやもうさすがにそろそろ勘弁してくれ……。練度が上がる前に訓練で再起不能になっちまうよ……」


 ソールの言葉に、ガンドがうんざりとした表情で抗議の声を上げた。


「ははっ、ソールの訓練は厳しかったみたいだな、ガンド」

「厳しいなんてもんじゃねーよ。あれは地獄だった……」

「あははっ、ガンドも冗談がうまくなったねー♪」

「冗談言ってるつもりは一ミリも無いんだがっ!?」

「あんなの、昔、ジャック様が乗り越えた試練に比べると、ちょっとしんどいだけの運動だよー?」

「うっそだろ……ご主人、マジか?」

「ん? あー……昔は色々と地獄をくぐり抜けたから、ソールのいう試練がどれのことなのかは分からないな……」


 とは言え、勇者パーティの一員として参加した試練はどれもこれも地獄過ぎたから、ソールの言っていることは特に嘘じゃないんだけど。


「まぁ次々に現れる魔獣を一ヶ月間倒し続けるとかはやった」


 しかも休憩する時間も無しで。

 あれは地獄だったなー。


「なんだそりゃ!? そんなの生き残れるワケないだろっ!?」

「魔法を使いながら仮眠を取って、魔法を使いながらメシ食って、魔力が無くなったら肉弾戦しながら魔力回復を待てば良いんだ。簡単だろ?」

「ほらね? ソールの言った通りでしょー?」

「……あんたらの奴隷になったことを、今、まさに後悔してるよ」


 頭を抱えるガンドに苦笑していると、艦橋のドアが開き、メイド服の少女が姿を見せた。

 リリアやソールたちと同じメイド服を着た少女の名はノート。

 ルミドガルド世界の女神である太陽の女神ソール、月の女神マーニの妹であり、先日、俺の召喚に応じて受肉した星の女神様だ。


「おやおや? なにやらお取り込み中のようなー?」


 頭を抱えるガンドを見てノートは可愛らしく小首を傾げると、サラサラの金髪がゆらゆらと揺れて一際目を引く。


「いや雑談してただけだよ。ノートはどうして艦橋に? いつもなら部屋で解析に集中してる時間なのに」

「んー、ある程度は解析出来たのですけれど、ちょっと手持ちの情報が足りなくて詰まっちゃいました。なのでまたメアリーさんたちと情報交換したいなーって」


 ナルマとメアリーの決闘後、メアリーと――正確にはメアリーとアミャーミャの二人だが――魔法と魔術の情報交換をする取引を交わした。

 契約の魔法を使って嘘偽りなく情報交換することになり、俺たちは『古き貴き家門』が使う『魔術』のことを。

 メアリーたちは俺たちが使う『魔法』のことを知ることになったのだが、そこには意外な事実が隠されていた。

 その事実――『シャンの呪縛』を解呪するためにメアリーたちと協力関係を結び、今に到るという訳だ。


「解析の進捗は?」

「六割ってところですね。例の呪縛の効果はおおよそ把握できましたけど、解呪となると術式の構造を掌握しないといけませんから。ただ『理外のもの』ですから術式が特殊すぎて、ちょっと時間が掛かりそうです」

「分かった。メアリーたちには俺のほうから声を掛けておくよ。引き続き、解析を頼む」

「承りました♪ ではノートはこれにて!」


 笑顔を浮かべて言うと、ノートは艦橋を後にした。


「……ご主人よぉ。あの人は一体、何者だぁ?」

「何者って、ソールたちの妹だぞ」

「妹、ねえ。そんな人がこの艦に乗ってるなんて、アタイは聞いたことが無かったんだがなぁ?」

「あ、それ、エルも気になってたー! ノートさんっていつアルヴィース号に乗ったのかなーって」

「ガンバンの奴隷たちの中には居ませんでしたし……。そういう意味でも確かに気になりますね」

「うんうんニャ!」


 ガンドの台詞を皮切りに、ブリッジクルーたちの好奇心に満ちた視線が俺に集中する。


「んー……まだ内緒、ってことにしておいて」

「なんだそりゃ? 言えないってことか?」

「いつかちゃんと説明しようとは思ってるんだけどな。今は言っても信じて貰えないだろうし」

「……訳ありということですか?」

「まぁそうだな。そう思ってくれて構わない」

「ブーッ。面白い理由があるのかなーって期待してたのにー」

「仕方ないニャ」


 俺の曖昧な答えに口々に不満を零しながらも、クルーたちは俺の言い分を受け止めてくれた。


「時期が来たらちゃんと説明するよ。それじゃ、俺はマーニと合流して小型艦の組み上げに取りかかる。ソール、後のことは頼む」

「了解でぇ~す!」


//次回更新ですが、少し体調を崩しているため、

//可能であれば、08/19(金)、体調が戻らなければ08/26(金)にさせて頂きます。

//ブックマーク等して頂きまして、更新を楽しみにお待ちください

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