スイカちゃん物語①「喫茶店」
夢美瑠瑠
スイカちゃん物語①「喫茶店」
(これは、2019年の「喫茶店の日」にアメブロに投稿したものです)
掌編童話・『喫茶店』
私は、太田愛蘭(おおた・めろん)といって、小学六年生の女の子です。
みんなからは、ウォーターメロンちゃん、スイカちゃん、とか呼ばれています。
スイカは好きな果物なので嫌じゃないです。両親は、瑞々しい、みんなに好かれるような、名前をつけたかったんだと思います。
今日は日曜日で、ゆっくり寝て、あとは公園にでも行くつもりだったけど、お母さんに「町はずれのおばさんのうちまでお届け物をしてね」と、言いつかりました。
四角いふろしき包みを持たされて、家を出ました。
簡単な地図を書いてもらいました。
春の若芽の匂いがする住宅地をとことこ歩いて行って、市街地に出ます。
家族で食事に行ったりするので、そんなに不案内というわけではありませんが、ひとりで、お使いに出るのは初めてなので、緊張します。
「初めてのお使い」というテレビを思い出しましたが、あんな風に、今までこういう頼まれごとをしなかったのが寧ろ不思議なくらいです。
私って、「箱入り娘」なのかもしれないです。
そういえば、本田真凛というスケーターの女の子に似ていると言われるし、男の子たちはみんな私を見るとちょっと照れて赤くなります。
「知らない人についていってはいけないよ」とばかり言われるし、「ロリコン」とか「ロリータ」とか「ベドフィリア」とか両親が話していることがありますが、要するに私がすごく可愛いので?すごく心配しているんだと思います。
今日はうちが、来客で忙しいので、たまたま私を一人で送り出すことになってしまったのかと思います。
街に出てしばらく歩くと、疲れてきて、初めてなのですが、ちょっと喫茶店というところに入ってみようと思いました。
「猫の額」という喫茶店があったので、チリリリリン、とドアベルを鳴らしながら入っていきました。
ピアノのレッスンで演奏したことのあるモーツアルトの、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」が流れていて、ちょっと薄暗くて、コーヒーのいい香りがしている、雰囲気のいい喫茶店でした。
そこら中に、たくさん趣味のいい猫のアンティークばかりが並べてあって、可愛らしいのもあれば不気味なのもありました。
「いらっしゃいませ」といって、可愛いお姉さんが、おしぼりとお冷を置いてくれました。
「レモンスカッシュ」と言うと、「はい」と言ってニコッと笑ってツカツカッとあっちへ行きました。
その笑顔も何だか猫に似ている、という印象を受けました。
「猫づくし」にして、猫の好きなお客さんを呼び寄せようという作戦かもしれない…
レモンスカッシュを飲んでいると、BGMはビバルディの「春」に変わりました。
風呂敷包は割と軽かったけど、やっぱり手が疲れていて、やっと人心地付きました。
お母さんに何のお使いか聞いていないので、この包みの中身は分からない。
「風呂敷だけなら、開けてみてもいいかもしれない」と、好奇心が湧いてきた。
紫色の風呂敷包みを解く。
「あら?これは…」
「銘品・鰹節」と、書いてある、紐を結んだ木の箱が入っていて、振ってみると、カラカラ、と音がして、あの、香りのいい、削って使う、鰹節がいくつか入っているらしい…
ふうん、と思って私はまた、風呂敷に鰹節を仕舞おうとしたのです。
ですが、ふと気配を感じて顔を上げると、猫のような髭だらけの顔をした喫茶店のマスターが、すぐ脇に立って、目を血走らせて、よだれを垂らさんばかりの顔をして、風呂敷包みを見ているではありませんか!
「きゃあああ!」
私は真っ蒼になって逃げだしました。
… …
なんてこと!Oh Jesus!
それから私はもう喫茶店というところには二度と入れない女の子になってしまったのです。
<終>
スイカちゃん物語①「喫茶店」 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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