第6話 友達の死 ――― 大塚ほたる
2017年 06月14日
この日は、私にとって忘れられない日となった。
規則正しく鳴るチャイムに従い、私達生徒は時間に支配された空間で過ごしている。
いつもと何一つ変わらない生活の始まり。
朝、起きたら母親の作った朝食を食べて、お弁当をカバンに詰め込んで、家から歩いて5分程にある新町駅から電車に乗る。
終点の高崎駅で乗り換えて、今度は井野駅と言う駅で降りると、自転車に乗って学校まで行く。
2年3組
教室に着くと、高校に入って一番最初に仲良くなった『大崎愛奈』が私の席にやって来た。同性の私から見ても、愛奈はモデルみたいに美人だ。
身長も高く、スタイルも良くて、とにかくモテる。
しかし、性格はと言うと…賛否両論だろう。
私は嫌いではないけど、周りからは割と嫌われている印象。
男関係が激しすぎて、友達の彼氏だろうが、誰だろうが気に入った人には、とにかく凄い積極的に行動して、付き合っては別れてを何度も繰り返している。
この前まで、一つ先輩のバスケ部の人と付き合っていたが、この先輩の元彼女は私達と同じクラスの子。それが原因でその子と愛奈は話をしていない。
いや、正確に言えば、愛奈が歩み寄っても無視をされて、それからは愛奈も近付こうとしないのだ。
当たり前だ。ほんの少し前までは、その子と愛奈は仲が良かったのだけど、彼氏を取られたとなれば、友情なんて木端微塵に壊れてしまうのだ。
所詮、女の友情なんてそんなもん。
確か、私が把握しているだけで、愛奈と仲良くなってから、10人くらい彼氏が変わっていると思う。どの彼氏も長続きしないで。
バスケ部の先輩は、記憶が正しければ2カ月くらいだったかな?
別れた理由なんて知らないけど、どうせ愛奈が好きな人が出来たとか言ったのか、愛奈のワガママに愛想を尽かしたのかだろう。
―――その愛奈が殺された…
3時間目、国語の授業が始まった頃だった。
ガラっと教室の扉が開き、英語の先生が「大崎さん、ちょっと良いですか?」と、愛奈を廊下へ呼び出したのだ。
すぐに愛奈は教室に戻ると、荷物をまとめ、急いで教室を出て行った。
その時の愛奈の表情は、普段と違って焦っている様に見えたが、その理由は英語の教師の説明で解ったのだ。
どうやら愛奈のお父さんが仕事中に事故に遭ったらしい。お父さんは、かなり危険な状況の為、お兄さんから連絡が来て早退となった。
そして、授業が再開された。これが、最後に見た愛奈の姿だった…
数分後、事件は起きた。
サイレンの音が近付いて来て、学校中がソワソワと慌ただしくなったのだ。
窓から現場を見る生徒、近くまで見に行った生徒。
それらの生徒を制御しようと教師は大慌て。
私は、何が起きたのか解らなかったが、すぐにその真相を知る事となった。
担任が教室に来て説明されたから。
このまま生徒は強制的に帰宅となり、私達は学校を出ざるを得なかった。
2日間、家庭内学習と言う名目の自宅待機となった。
学校側が事件の事情聴取やらで、授業どころではないし、生徒の精神状態を考慮して判断したみたいだ。
翌日の新聞記事によると、
愛奈のお兄ちゃんと名乗り、駅に着いたら電話をする様にと、教師に伝言を残したみたいだ。だから、急いで自転車に乗って駅へ行こうとしていた時、正門から出ようとしたところで愛奈は刺された。
ただ、刺されたのではなく、胸や足など、数カ所を包丁で刺さされたみたいだ。
救急車を呼んだ時点で、すでに愛奈は亡くなっていたらしい。
犯人は、その場で放心状態だったらしく、警察が来て逮捕されたみたいだけど、その愛奈を殺した犯人と言うのが、バスケ部の先輩と付き合う前に付き合っていた他校の彼氏だった。
殺害した動機は、一方的に振られて頭に血が昇ったから。
動機にしては解りやすい理由だったが、それでも、そんな事で人生を棒に振ってまで人を簡単に殺すのか?私には理解が出来なかった。
2日振りに登校すると、私は仲良かった友達と一緒に、愛奈が亡くなった場所にお花と、愛奈が好きだったお菓子を供えた。
その日、ぎこちないまま授業が始まったが、愛奈の事件に関しては教師は何も言わなかった。ただ、その代わりに愛奈の席に花が飾られたのだ。
それだけで、事の真相は知らない人間にも伝わる。知らない生徒や教師なんていないけど。
その日、私は夢を見た。
愛奈が、苦しそうに手を伸ばしている夢を。
私に何かを伝え様としている。
度々、そんな夢を見る様になった。
2018年 06月18日
愛奈が亡くなった日から一年が過ぎた頃、私は夢を見た。
夢の中で私は、愛奈が亡くなる場面を客観的に見ていたのだけど、どうして私にこんな夢を見せるのだろう?特別、怖いと言うのはなかったけど、その理由がどうしても気になって仕方がなかった。
愛奈のお墓参りに行った時、その理由が解った。
お墓の前に、誰かがいたが、それが愛奈の母親だとすぐに解った。
何度か、愛奈の家に遊びや泊まりに行っていたし、お葬式の時にも会っているからだ。
「こんにちは」そう、声を私が掛けると、母親は振り返り私を見た。
1年前より、少し痩せた様に見える。頬には涙が流れている。
「ほたるちゃん…」ハンカチで涙を拭い、無理矢理作った笑顔を見せる。
私は、愛奈のお墓に花とお菓子を供えた。
これから時間あるかしら?と、母親に聞かれたから、私は大丈夫とだけ言うと、すぐ近所にある愛奈の家へと案内された。
ここに来るのは、2年になってすぐに来て以来だから、とても懐かしく感じた。
リビングに通された。愛奈のお仏壇に手を合わせてお線香を上げる。
愛奈の部屋に行きましょう、そう促されて私は後に続いた。
あの日のまま何も変えてないの、母親が言った通り、私が来た時と変わった様子は何もなかった。
ベッドに腰を掛けた母親が、これを、と言って私に封筒を手渡して来た。
そこには、ほたるへ、と記載されている。
これは、愛奈の字だとすぐに解った。封は開いていない。
机の引き出しに入っていて、もし私が来る事があったら渡す様にと、メモが書かれていたらしい。
私は、その場で封を開けて読んだ。
ほたるへ
私なんかと仲良くしてくれてありがとう。
自分の死期が近付いてる事が解ったんだよね。
今の私の力では、何月何日まで詳しくは解らないけどさ。
だから、伝えたい事を書いておくね。
誰にも話した事がないけれど、私には死期が解る能力?みたいなものがあるんだ。
まだ、開花されてないみたいだけど、ほたるにも
同じ様な力が少なからずあると思うの。
もし、その力を開花させたかったら、護嶺神社の奥にある大きな木に
触れてみてよ。
じゃあ、私はもう死んじゃったと思うけど、
今までありがとう。
大崎愛奈
手紙を読み終えると同時に、私は愛奈の家を急いで出た。
さっき読んだ手紙に書かれていた『護嶺神社』へ向かう為に。
愛奈の家から、自転車で15分程の距離。何も考えずに、ただ私はペダルを漕いだ。
護嶺神社へと着いた。
前を通った事は何度もあったけど、こうやって敷地内に入ったのは初めて。
何だか、緊張して来たからか、鼓動が高まり速くなる。息苦しさとは少し違う感じだけど、妙に酸素が薄く感じた。
重い、とにかく空気が重いと、上手く説明が出来ない感覚だった。
一歩一歩、私は大きな木を目指して歩き出すと、目の前には一際目立つ大木が聳え立っていた。
きっと、この木に間違いない、そう思うと、更に酸素が薄くなった気がする。
私は、そっと大木に触れ様とした時、フワッと生暖かい風を感じた。
その風に乗って、愛奈が好きだった香水の匂いがした様な気がする。愛奈は、きっとここに居ると感じたと同時に、私は大木に触れる。
触れた瞬間、頭の中に何かが聞こえて来た。
その声は、愛奈の声にも似ていたが、姿が見えないから確信は持てなかった。
『目ヲ閉ジテ』
『深呼吸ヲシテ』
『ソット目ヲ開ケテ』
私は、その声に従って行動をした。
目を開けると、不思議と学校に行かなきゃと思い、向かう事に…
学校へ着くと、愛奈が亡くなった正門の近くに自転車を止めた。
あの事件から1年が経った今も、愛奈が亡くなった場所には、花やお菓子が供えられている。
また、フワッと生暖かい風を感じた。
私は、目を閉じて愛奈の事を思い、頭の中で問い掛けた。
その時、私を呼ぶ声が聞こえて来た。
『ほたる』と、愛奈の優しくて明るい囁く様な声が背後から聞こえて来たのだ。
いる筈がないのは解っているけど、不思議と怖さはなかった。
振り返ると、あの日のままの愛奈が立っている。
何一つ、変わる事のない愛奈が。
私をただ見つめて、そっと微笑んだ後、ゆっくりと愛奈の姿は消えて行った。
その時、やっと愛奈が私を神社に行く様に導いた意味が解った気がした。
きっと、この力を使って、誰かを救って欲しいと。
だけど、その力が何なのか、未だに私には解っていない。嫌な予感がしたからと言って、それがどんな結果を生むのかまでは解らないのだから…
2021年 04月19日
高校を卒業後、美容師になろうと思っていた私は、専門学校へ進学した。しかし、美容師にはならず、私はアパレル店員になっていた。
ずっと好きだったブランドショップ『L&K』で働く事が夢だったから。この頃、余りにも日々の忙しさで愛奈の事を忘れかけていたけど、そんな私を気遣ってか、夢に愛奈が出て来て、無理しないで、と心配されたのだ。
夢だって事は解っているけど、それは普通の夢とは違い、あの日以来、ここぞと言う様な決断を迫られる時や、私が悩んだり困っている時にだけ、愛奈は夢に現れる様になったのだ。
夢で、愛奈は『こうしたら良いよ』など、アドバイスをくれる。言われた通りにすると、悩みなどは自然と解消されるのだった。
私の中で、愛奈は生きている、そう夢の中だけど感じる事が出来る。
2022年 01月09日
同じショッピングモール内にあるCD屋に立ち寄った時、何度か休憩室で見掛けた事はあった彼がいて、その日は何だか雰囲気が違った様に見えた。
彼の背後に、黒い影や白い靄が見えたのだ。それが切っ掛けで、何度かそのCD屋に足を運ぶ様になった。
ここまで嫌な感じは久し振りだったから、愛奈からの忠告かと思い、私は彼に付いて調べてみようと思ったのだ。
名札を見ると『中野 明希人』と書かれていた。
CD屋には、同じ年の女の子がいて、何度か話した事があったので、面識のない彼とは連絡先の交換なんて難しいからと、その子と交換する事にした。
何かあれば、彼女経由で伝えられたらと思って。
この中野と言う男は、私より1歳年上。
彼女は別れたばかり。
好きなものは心霊とか都市伝説。
交換した子から色々聞いてみたが、余りにも聞きすぎたからか、中野さんを好きなの?、と勘違いされてしまったから、私じゃなくて、友達に聞いてと頼まれた、と嘘を付いて誤魔化した。
数日が経つと、中野さんの背後にいる黒い影と白い靄が大きくなった様に感じた。
このままでは、近い内に中野さんは死んでしまうと思い、中野さんに接触する様な行動に移す事にしたのだ…
接触する日、久し振りに愛奈が夢に現れて、私に言った。
『彼ニ高校ヘ行カセル様二促シテ』と…
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