第5話 動画投稿サイト ――― 中野 明希人

どうやら大塚さんは、俺に話した事で、すぐにでも行ってしまったと思い、仕事帰りに例の高校前を通ってみたらしい。

川沿いの道に路駐していた車があったから、その車が俺のだと思ったらしく、心配になったとの事。しかし、その車が本当に俺のか解らないから、通り過ぎるだけで自宅へ帰り、俺の後輩にメールしたとの事だった。

「それで、中野さんは…あそこで何か見たりしましたか?」

大塚さんを怖がらせたら悪いと思ったから、俺は何も見ていないと嘘を付いた。

実際には、体育館で女を、校舎の廊下で黒い影を見たが、敢えてそれは言わなかった。それを聞いてか、安心した様に思えた。

電話を切ろうとした時、絶対にあそこには二度と行かないで下さいね、と忠告を受けたから「二度と行かないよ」と告げて電話を切った。


2022年 1月27日


純平さんが、この前の高校で撮影した映像を編集し終えたから、動画投稿サイトに公開した日。


2022年 1月28日


今までで一番恐怖体験した動画だったからか、視聴者からのコメントが多数送られて来た。勿論、体育館で撮った苦悶の表情の青白い顔の女も、黒い影も載せてある。

しかし、それらの他に俺達が気付いていない得体の知れないモノが写り込んでいると、コメントも多数送られて来ていた。

その日、その得体の知れないモノの検証の為、純平さんに誘われ、駅からそこそこ近いインターネットカフェで集まった。

編集の時、そんなモノに気付かなかった、と純平さんが言っている。勿論、現場では、そんなモノは誰一人として見ていなかったが、コメントが余りに多いから、みんなで確認しようとなったのだ。

編集した動画を見るのは、俺も祥子さんもこれが初めてだった。


純平さんが再生ボタンを押す。

コメントに書かれていた16分12秒の少し手前まで無言で視聴した。

16分の場所で一時停止をし、祥子さんが、いよいよ例の場所ね、とボソっと言う。

ちょうど、画面は渡り廊下の反対側へ移動するところ。

確か、時間として30~40秒程で反対側まで移動した記憶がある。その間に、何が写っていると言うのだ?

一時停止を解除して再生された。

何なんだ?こんなの気付かなかった…

純平さんも、編集をしてる時、これを見逃す訳がない、でも、気が付かなかったと言う。

もう一度、時間の少し前まで戻して再生をしてみたが、それは確かにハッキリと写り込んでいて、何とも言えない不気味な声も聞こえた。


純平さんを先頭に、祥子さん、俺と並んで歩いている。純平さんが振り返って、後ろにいる俺と祥子さんを写した時だった。

何か黒い物体が校舎の上から勢いよく落ちて来た。その黒い影は、人の形にも見えなくはない。

ドンッ!と、鈍い音を立てて地面に落下したであろう直後に『ユルセナイ…』と、男性の低い声がハッキリと聞こえた。

ゾクゾクっと、鳥肌が全身に立つ。俺は、本当に行ってはいけない場所へ足を運んでしまったと、今更ながら後悔をしたが、純平さんだけは違っていた。

むしろ、この場所で、こんなにも心霊現象を撮る事が出来たからか、満面な笑みを浮かべて、また行こう、と言い出したのだ。

流石に、俺も祥子さんも反対した。しかし、純平さんは、それなら一人でも行くと言い出した。

その時、俺達が借りている部屋だけだろうか、いきなりバチンッとパソコンの電源が消えた。祥子さんの表情が険しくなり、悲鳴を上げた。

店員が駆け付けて来たが、その男性店員の肩に青白い指らしきモノが見える。店員の呼び掛けに反応すると、先程の店員の声ではない別の声で『ナンデ、タスケテクレナカッタノ…』と囁いた。

その声は、動画で聞いた男性の低い声に似ていると思った。

その言葉を発した後、店員がその場に倒れ込んでしまい、純平さんが受け付けへ走って行き、事情を説明し、他の店員が駆け付ける事態となったのだ。


余りにも気味が悪いから、俺達はインターネットカフェを出て、現地解散をした。

俺は、家に帰るなり、すぐにパソコンを開いた。

あの高校で、昔何があったのかを調べる為だ。大塚さんが言うには、生徒では有名な話だったらしいし、何か手掛かりが見つかるかもしれないと思ったからだ。

煙草を吸いながら、高校名の後にスペースを入れ、事件と打ち込み検索した。

マウスを動かし、上から調べてみるが、これと言って心霊に繋がる様な事件はなかった。

今度は、心霊と打ち込み検索。

すると、気になるサイトが見つかった。クリックし、そのサイトへ飛ぶ。

何とも悪趣味なデザインで構成されているサイト名は『高崎市〇〇高校ノ怪』と書かれている。


『自殺者リスト』と言うページをクリックする。


2011年 07月12日・・・1年女子生徒 失恋によって自宅自室にて首吊り自殺

(2011年 07月10日、ゴミ捨て場に胎児の遺体遺棄?)


2013年 02月26日・・・3年男子生徒 受験失敗によって電車へ身投げ自殺


2016年 12月30日・・・2年男子生徒 イジメによって校舎から飛び降り自殺


2017年 01月04日・・・女性教師 原因不明 体育館裏にて焼身自殺


2019年 10月12日・・・2年女子生徒 対人関係によって女子トイレにて首吊り自殺

(校舎三階東側女子トイレとの噂あり)


2021年 02月09日・・・女子卒業生 原因不明 駐輪場にてリストカット自殺


2021年 02月22日・・・3年女子生徒 自身の教室より飛び降り自殺




続けて『事件・事故リスト』と言うページをクリックする。


2009年 12月17日・・・推定5歳くらいの女の子の白骨化した遺体が体育館の脇にある地面から見つかる(おそらく、埋められて数十年が経過との噂あり)


2010年 03月05日・・・1年女子生徒 部活動中に体育館にて謎の死


2011年0 7月10日・・・ゴミ捨て場に胎児の遺体発見 後日、2年女子生徒、自宅自室にて首つり自殺(噂によると、失恋と遺体遺棄で自殺?)


2014年 08月12日・・・2年男子生徒(定時制) 校庭の隅にて変死体で発見される 


2016年 11月25日・・・3年男子生徒 通学中に信号無視の車と接触し事故死


2017年 06月14日・・・2年女子生徒 校門前にて他校生徒

(ストーカー?もしくは元彼氏?)に刺されて即死




最後に『心霊現象』と言うページをクリックする。


1.体育館内、体育館裏


2.校舎一階の廊下


3.駐輪場・正門付近


4.校舎三階東側女子トイレ


5.屋上


6.3年4組教室


7.ソフトボール部の部室


全てを見終わると、俺達は行ってはいけない場所へ行ってしまったんだなと、更に後悔をした。時間を戻せるなら、大塚さんから聞くだけで、実行をしなければ良かったとも思ったが、そんな事を思ったとこで、時はすでに遅し。

現実的に俺達は足を踏み入れてしまい、得体の知れないモノを映像として残してしまったのだ…

この日を境に、俺は純平さんと祥子さんと距離を空ける様になった。

何度も誘いの連絡は来たが、あんなに好きだった心霊スポットにさえ、全く興味を示さなくなったのだった。そんな俺の事を気遣ってか、純平さんも祥子さんも、無理矢理俺を連れて行こうとは考えなかった。

むしろ、誘いの連絡がなくなると、○○って場所へ行って来た、今度は○○へ行く、とメールだけの関係へと変わったのだ。

純平さんが運営する動画投稿サイトは、昔の様に一ファンとして暇な時に見る以外、そこへ行きたいとか思わなくなった。



2022年 3月24日


仕事が終わると、純平さんから久し振りに着信が残っていた。

車の中で折り返し電話をすると、

―――祥子が死んだ…

そう言われた。いくら理由を聞いても教えてくれなかったが、ここ最近は心霊スポットには一緒に行っていないから、少し疎遠になっていたとの事。確かに、ここ最近の動画投稿サイトを見ても純平さん一人しか写っていなかった。

それが、何故なのか、考えた事もなかったけど。

俺は、純平さんも祥子さんも本名を知らない。この名前だって本名かどうか解らない。俺も、本名は名乗っていない。

だから、俺が死んでも二人には伝わるのかさえ謎だ。スマホに電話番号は入っているが、パスワードを入力しない限り起動しない。ショップへ持って行くなり、警察にお願いすればパスワードなくても起動するかも知れないが、だからと言って連絡するのかは家族や警察次第だろう。

祥子さんからは、連絡など暫く来ていないし、取っていなかった。



2022年 4月7日


その日は、仕事が休みだった。俺は、予定がなかったから家でダラダラと過ごしていたが、お昼を過ぎた頃、ある男から電話が来たのだ。

「高崎警察署の高部と申しますが、中野 明希人さんの携帯電話でお間違いないですか?」と…

電話で数分だけ話したが、どうやらこの高部と言う男は、音信不通の純平さんの従弟らしい。その、純平さんの事で話がしたいと言うので、15時に駅ビル内にあるカフェで待ち合わせをする事になったのだ。

10分前に約束のカフェへ到着すると、スーツ姿の男が窓際の席で外を眺めていた。

この男が高部に間違いないと思い、声を掛ける。

スラっとした体型で、優しそうな笑みを浮かべて自己紹介をされた。

「それで、俺に用ってなんですか?」俺から話を振る。

「最後に電話をしたり、会ったのはいつですか?」丁寧な口調で質問をされた。

とても聞きやすい声で、落ち着きのある話し方だ。

スマホを確認し、4月4日のPM22:39に電話が掛かって来たのが最後で、その後はいくら掛けても繋がっていないです。正直に答えると、その時の会話の内容は?と聞かれ、怯えた声で駄目かも知れない、と言っていたと話した。

「単刀直入に言いますが、君は純平の趣味をお手伝いしていた様ですが、こちらの女性をご存じですよね?」高部は一枚の写真を俺に差し出した。

その写真は、祥子さんの写真だった。

俺は、頷いた後、三人で心霊スポットへ行っていた旨を話すと、祥子さんの写真をカバンに入れて驚愕の事実を聞かされたのだ。

純平さんが、祥子さんの自宅で首を吊って亡くなったと…

しかも、祥子さんの自宅は、純平さんが首を吊る数日前に火事によって全焼。家族全員が焼死したと聞かされた。


何故、俺に辿り着いたのか聞いたら、スマホのデーターは全て消されていて、パソコンも電源が入らず故障していたと。しかし、部屋に俺の連絡先の書いてあるメモがあったらしい。それを警察の力で調べたと。

だから、純平さんさえ知らない本名を知っていたんだと納得。世の中、個人情報の取り扱が厳しい中、事件性もあり、警察って言うのもあって、すぐに番号から持ち主を判明出来るらしい。

高部と話している時、大塚さんからメールが来た。

ちょっと失礼、と一言掛けてスマホを操作すると、思ってもいなかった内容のメールが届いていた。


『たまたま検索してサイトを拝見しました。あの話、嘘だったんですね…』








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る