第4話 動画投稿サイト ――― 中野 明希人
2022年 4月4日 PM22:39
「アキ、俺はもう駄目かも知れない…」
これが、最後に聞いた純平さんの言葉だった。
突然、電話を切られてしまい、何度も掛け直してみたが、純平さんは一度も電話に出る事もなく、今もまだ消息は不明のまま。
毎日の様に電話を掛けてみるが、常に『現在、使われていません』と言う無機質な女性の声のアナウンスになってしまう。
同じ様に、祥子さんの電話も繋がらない。一体、二人に何があったと言うんだ?何かの事件に巻き込まれたりでもしたのか?と、心配になった。
しかし、俺達はお互いの本名を知らないし、どこに住んでいるのかさえ、詳しくは知らない。つまり、それだけの関係だって事。
二人との出会いは、たまたま見つけた動画投稿サイト。出会ったと言うか、同じ地元と言う事もあり、俺にも手伝わせて欲しいと、メールしたのが切っ掛けで知り合ったのだった。
純平さんと祥子さんは、高崎市内に住んでいる。
俺よりも一つ年上。それしか知らない。
心霊スポットと言われる曰く付きの場所へ行き、そこで動画を撮影してサイトに載せる。趣味みたいなものだ。
俺も、そう言う心霊的なモノが好きだから、お手伝いとして同行させて貰っているだけ。それ以上の関係でも、それ以下の関係でもない。
取り敢えず、何か手掛かりはないかと、3人で行った心霊スポットの動画を遡って見ながら思い出す事にした。
2022年 1月7日
この日、初めて俺も同行させて貰った。場所は、高崎市内にある某公園。
その公園は、夕方になってしまうと門が閉まってしまう。
園内には、美術館や博物館もあり、緑豊かな場所となっていて、日中は子供達が無邪気に遊んでいたり、散歩をする人達で溢れ返っている。
深夜12時過ぎ、近くに車を止めて、門を登り園内へと侵入したのだった。
不法侵入ってやつだけど、良い動画を撮る為なら仕方がないと、純平さんは何度も言っていた。その言葉に、祥子さんも同意していたのだ。
灯りのない園内を歩くと、ザッザッっと音がした。
俺達三人は、その場で立ち止まって耳を澄まし集中して音を聞いた。
その音は、足音の様に聞こえた。しかも、暫くすると、その音が何重にも重なって、何十人が一切リズムを狂わす事なく歩く様な音へと変わった。
兵隊の行進?と、俺は思ったから二人に聞くと、確か戦時中にここで爆弾だったかな?の工場があったとか、事故があったとか聞いた。
そんな話をしながら、更に奥へと進む。次第に辺り一面が森となった。木々が風に揺られて不気味な音を発する。
ここら辺じゃなかったか?と、純平さんが祥子さんに確認すると、多分ここだと思うと、返事をすると、純平さんが持っていたスマホで何枚か写真を撮り始めた。
その一枚には、木々の中に真っ白い足だけが写っていたのだ。
この奥に、廃墟となった建物があるんだけど、流石にフェンスが邪魔して行けそうにないと、純平さんは残念そうに言っていた。
俺達は、一人ずつ感想コメントを撮影して、そのまま公園を出た。
2022年 1月13日
同じショッピングモールで働く女性社員と、休憩中にたまたま話す事になった。
休憩室で食事をしていたら、俺が働くCDショップに『幽蝶』ってバンドのCDがあるかの確認だったが、余りにも無名なバンドだったから、調べないと解らないとだけ伝えた。その日の夕方、その子が店に来て、たまたま入荷していたCDを渡した時、ここら辺で心霊スポットってないかな?と、何となく聞いてみた。
余りにも唐突過ぎた質問だったけど、意外な返答が返って来たのだ。
それは、その子が通ていた高校での話だったが、地元に住んでいても、そんな話を聞いた事がなかった俺は、詳しく聞いてみる事にした。
何年か前、体育館でバスケ部の一人の女の子が残って練習をしている時、急に亡くなってしまったらしい。それ以来、その子の霊が出ると噂になってるとの事。
その内容を半信半疑でメモを取り、後で純平さんに報告をしようと決めた。
その日、仕事が終わるとすぐに純平さんに電話をした。
先程、女性社員から聞いた高校の話をすると、今すぐそこへ行こうとなった。勿論、祥子さんも一緒に。
いつもの待ち合わせ場所へ向かう。待ち合わせ場所は、いつも17号線沿いにあるファミレスの駐車場。同じ敷地には、ホームセンターもあり、駐車場は広かった。
暫く待つと、純平さんの車が俺の車の隣に停車した。
助手席には、祥子さんが座っている。いつもと何も変わらない光景。
一旦、ファミレスに入り、そこへ行く前の簡単な打ち合わせを行った。
俺が聞いた話を二人に伝えると、そんな話は聞いた事がないから、もしかしたら知る人ぞ知る話かも知れないねと、祥子さんが応えてくれた。純平さんは、今すぐにでも行きたいと、言っていた。
PM 22:34
体育館の脇にある川沿いの道に車を停車させて、俺達三人は正門へと向かった。
夜の学校と言うのは、不気味さを増している。
言われた通り、まずは体育館を目指して進んでみる。目的地は、正門から入ってすぐ右手に大きく聳え立っていた。
体育館の脇を進むと、ある事に気付いた。数メートル先にある体育館の出入り口が開いていたのだった。カメラを回している純平さんが中を覗き込んだけど、これと言って何も変わった事はない。しかし、異変が起きたのは出入り口を過ぎた瞬間だった。
ドンッ!!!!!
何かが鉄製の扉に力強く当たる音が響いた。
その後、トンットンッ…と、床を跳ねる様な音が聞こえ、俺達は、先程の出入り口に戻り、三人で体育館の中を確認する。
最初に気付いたのは祥子さん。指をさした方角を見ると、バスケボールが不気味に転がり、揺れていた。
さっき覗いた時は、あんなもんはなかったと、純平さんが言う。
ただならぬ不気味な雰囲気が漂う体育館に、誰一人として入ろうとはしなかった。
俺達は体育館の裏へと回る。
体育館裏は、バスケ部の女の子が外へ出て助けを呼ぼうとしたのか、それとも何か他に理由があったのか解らないけど、外へ出てすぐの場所で息絶えていたと、噂のある曰く付きの場所らしい。
体育館裏の鉄製の扉は閉まっていた。
辺りを見回しても、特に変わった様子もなく、ここで感想コメントを撮影しようとした時、何か強い視線の様なモノを感じた。
それは、体育館の上から見下されているかの様な視線。
ふと、三人同時に体育館の上にある窓が気になり見上げると、苦悶の表情を浮かべている青白い顔の女が俺達を見ていたのだった。
ヴウウ…ウウヴ~ッ
何とも表現が出来ない苦しそうな声が聞こえる。錯覚か?と、思ったけれど、純平さんも祥子さんも動かないでガタガタ震えていた。
勿論、俺もだ。
身体が動かない…これが、金縛りってヤツなのか?何分が経ったのだろう?ほんの10秒の時間さえ、何倍にも感じられる程の恐怖だった。
身体が動く様になると、俺達は逃げる様にその場から走り去った…
正門へ戻る途中、何かに引き寄せられる様に、校舎の引き戸が目に止まる。
引き戸のガラスには、ポスターが貼ってあった。俺達から見て右側に。
何もおかしな事などない、廊下は走らない!って言う内容のポスターだった。
ポスターを見ながら、校舎の中を覗くが、特におかしな点はなかったのだが、何故か反対側が気になり、俺達は校舎を回って、反対側の引き戸の前へと向かう。
先頭だった純平さんが首を傾げる。
その意味が解るのに、時間は掛からなかった。
この学校はおかしい…
さっき見たポスターは、俺達から見て右側にあったのだから、反対から見れば左側に貼られていなければならない。
しかし、反対側から見ると、何故か左側に貼ってあるべき筈のポスターが右側になっていたのだ。
どう言う事か、誰一人として説明が出来ない。いや、説明のしようがないのだ。
暫くガラス越しに反対側を見ていると、黒い影が見えた。
俺は、スマホを取り出し、すぐにソレの写真を撮影したが、撮った瞬間、再び体育館の方からドンッと音がした。それも、何回も続けて…
俺達は、一目散にその場から走って逃げた。後ろを振り返る事も無く。
正門から出てすぐに車へ乗り込む。
純平さんがエンジンを掛け様としたが、エンジンが掛からなかったのだ。
車を停車した場所は、体育館のすぐ隣。コンクリートの塀があるだけで、体育館の上半分は十分に確認が出来る。
体育館には、いくつもの窓が並んでいる。その一カ所に、さっき見た苦悶の表情を浮かべた青白い顔の女が見えた…
そして、何やら手招いている様にも見え、俺達は車内で叫ぶ事しか出来なかった。
もう来ません。
許して下さい。
ごめんなさい。
三人が、それぞれ謝罪の言葉を口にすると、急にエンジンが掛ったのだ。
俺達は、やっとの思いでその場から離れる事が出来た。
待ち合わせしたファミレスへ行き、その日はその場で解散となった。
自分の車に乗り、さっき校舎で見た黒い影の写真を確認すると、ただ、俺達の方を見ている人の様な形をしていた。
おかしかったのは、その影の大きさだ。高校生にしては小さ過ぎる影の大きさ。
何となくだけど、120センチ前後の身長位じゃないかと思った。
明日、今日撮った動画の編集を純平さんがして、その動画を送って貰う事になっていたから、俺はこの黒い影の写真を純平さんと祥子さんに送ってから家へと向かった。
俺の家は、17号を東京方面へ走り、有名洋服店の手前の道を入って少し行った先にある。築10年程の普通の一軒家。
実家暮らしで、両親と姉の四人暮らし。家に着くなり、急いでお風呂へ入る。
ずっと、鳥肌と寒気が消えないからだ。
だが、いくらお湯に浸かり温まっても、消える事はなかった…
風呂から出てすぐにスマホを確認すると、純平さんからメールが来ていた。
内容は、画像を使わせて貰うって言う内容。
もう一通メールが来ていた。祥子さんかなと思ったら、同じ職場の後輩から。
今日、CDを買った人が、至急連絡して欲しいと言う内容と、その人の連絡先だった。
彼女の名前は『大塚ほたる』と言い、俺より一つ年下らしい。
彼女が働いているのはL&Kと言うブランド店。簡単な自己紹介も一緒に送られて来ていた。
どうやら、この後輩とCDを買った子は特別仲が良い訳ではないけど、何度か顔を合わせる内に、同じ年と言う事もあって、連絡先を交換していたらしい。
後輩は、今日休みだったけど、わざわざ俺に用があるからと、連絡をしたみたいだ。
そんな説明が、メールで長々と書かれていた。
だったら、後輩にCDを頼めば良かったのに…と、思ったが。
それに、わざわざ連絡するくらい急用なのか?そんな事を考えながら、テーブルに置いてある煙草を咥えて、吸い終わったら電話をしようと決めた。
この時点で、すでに日付けは変わっており、もう遅いから一度電話してみて出なければ、また明日の朝にでも電話をすれば良いかなと思いながら連絡をしてみた。
トゥルル…トゥルル…トゥルル…
呼び出し音が三回鳴った後、電話が繋がり、通話が始まった。俺は、自分が誰なのかを説明すると、大塚さんは安心した様な声で「無事で良かった…」と呟いた。
それが、どう言う意味なのか気になり、聞いてみると…
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