第7話 友達の死 ――― 大塚ほたる
何故、この時、愛奈が中野さんを高校へ行かせる様に言ったのか、その理由は解らなかったけれど、その理由が解った時には、すでに遅かったのかも知れない。
中野さんだけじゃない。私も、愛奈に利用されていた一人に過ぎないから…
恐怖の連鎖は、再び世界に発信されるのだろう。
抗う事も出来ず、ただ、傍観者として見守る事しか出来ない。それが、私の犯した罪ならば、どうかこの罪を償わせて欲しい。
そんな願いなど叶わず、私は真っ赤な湖に身を沈める事に…
中野さんを高校へと行かせる事が出来た。
運良く、中野さんの方から、どこか心霊スポットはないかな?と、聞かれたから。
連絡先を交換した子から、そう言う場所を探していると言う情報を聞いていた。
だから、もしかしたらと思った。
その、きっかけを作る為に、わざわざCDを頼んで接近をしたのだから。
その日の夜、教えた高校の前を通ってみると、体育館の脇にある川沿いの道に車が一台停まっていた。それが、中野さんの車かまでは解らなかったけど、多分そうだろうと思った私は、その確認だけ済まして家へ帰る事に。
しかし、何か嫌な予感がしたから、中野さんの後輩にメールをして、私に連絡を貰える様に頼んだ。夜中、電話が来て、無事を知り安心したのだ。
何も見ていない、その言葉を信じた私が馬鹿だったのかも知れない。
それはそうだ。本当に何かを見たとして、面識がそんなにない私に本当の事を言う必要もないし、相手を怖がらせるだけだから、この場合、私でも嘘を付くだろう。
その日から、愛奈は夢に現れなくなった。
もしかしたら、中野さんが行く事で何か良い方向に廻ったのかも知れない。
そんな風に楽観的に考えていた。それが、間違いだった。
全て、愛奈の思惑通りに私も中野さんも利用されていたのだから、まさか、あの様な結末を迎えるなんて、この時点では誰一人として想像していなかった…
2022年 4月6日
久し振りに高校時代の友達3人と食事に行く事になった。
その内の一人が、昔、愛奈に彼氏を取られてしまった子だったけど、その子が教えてくれた話によると、私達が卒業した高校が心霊スポットとして有名になっているらしい。そんな噂があると。実際に、その子の友達が遊び半分で夜中に行き、幽霊を見たと聞かされた。
まさか、中野さんも本当は見たんじゃないか、と疑い始める様になった。
無料で見られる動画投稿サイトに、載っているよって教えて貰った。
何か、嫌な予感がしたから、私は家に帰って見る事にしてみたが、そこに写っていたのは紛れもなく私の母校。
そして、私がその場所を教えた中野さんと、その友達だった。
映像を見ると、まず体育館が写し出された。
体育館の扉が開いていた映像に、何か違和感を感じた。
きっと、中野さん達には見えていないし、この映像を見てる人でも見えていないだろう。だけど、私には見える。
それは、体育館の左側で膝を抱え啜り泣く女の子の姿が。
移動してすぐに、ドンっとボールが扉に当たった音が響く中に、女の子の声で『助ケテ』と聞こえたのだ。鳥肌が全身に立つ。しかし、映像から目を離せない。
何で、途中で止めたり消さないのか、この時、自分でも解らなかった。
体育館裏に移動すると、今度は、窓から青白い顔が見下していた。もしかして、ここで自殺をした子?と、頭に浮かび上がった。
見た事がない女性にカメラが向けられたが、その女性の背後には、炎の様に真っ赤な影が見える。大きさ的に、女性の背丈と変わらないくらいの大きさ。
人の形にも見えるその影がスーっと消えると『熱イ熱イ』と聞こえた。
続けて、中野さん達は校舎へと向かい、廊下で撮影をしている。一瞬だけど、撮影している人の足首辺りが写ると、何者かの手が足首を掴んでいた。子供の様に、小さな手が、力強く足首を掴んでいる様に見える。ボソボソっと、声が聞こえた。
耳を澄ましよく聞くと『遊ンデ』と子供の声が聞こえる。
私は、もう見たくない、そう思い消そうとしたが、金縛りに遭って動けなくなっていた。部屋の至る所から、ラップ音が響く。
ギシギシ…ガタッ…ギシギシ…ミシミシ…ズズズッ…ズズズッ…ドンッ…
ミシミシ…ジジジ…ガタッ…ギーギー…パリンッ…キーン…ザキュッ…
寒気を感じる。恐怖を感じる。そして、誰かに見られている様な視線を感じる。
私の気持ちなど何も考えないで、パソコンから映像は流れ続けている。
消す事も、止める事も出来ない。ただ、その場で身動き取れない私は、何者かによって映像を見せられている状態だと思った。
校舎の反対側へ向かう途中、撮影している人が振り返り、中野さんと女性を映した。黒い影が上から落ちて来たのだ。
えっ?この人には、見えていなかったの?こんなにハッキリと映っているのに…
ドンっと衝撃音の後『ユルセナイ』と、男性の声が入っていた。
噂で聞いた事あったけど、イジメが原因で何年か前に校舎から飛び降りた人?
頭の中で、そう考えていると、私の背後から『ソウダヨ…』と、男の野太い声が微かに聞こえた気がする。
振り向けない…いや、振り向きたくても体が動かない…
そのまま私は映像を見せられた。
校舎の反対側に着くと、反対側のガラスに、子供の様な黒い影が見える。あれ?この影って…
そうだ、中野さんの背後にいた影だ。でも、何でここに?ここに来る以前から憑いていたのだから、何かがおかしい…
その影が、手を振っている様にも見える。もしかして、この影は、ここでお別れと言うつもりなのかな?ここへ来たかったのだろうか…
それなら辻褄が合う。何故なら、この日を境に、黒い影は中野さんから見えなくなったからだ。
だから、愛奈は中野さんをここへ導いた?
映像は、一目散に逃げる一部始終を捉えながら、逃げ込んだ車内の映像へと変わる。
車内での様子が写されると、ここで動画は終わった…
動画が終わると同時に、私の金縛りが解ける。
後味のスッキリしない映像に、何か違和感を感じたが、今はそれ所ではない。
部屋の中が明らかにおかしいのだ。
ラップ音は止んだけど、やはり、誰かに見られている、そんな気がする。
視線はどこから?
辺りを見回しても、誰もいない。
私は、気味が悪くなり、リビングへと向かった。リビングでは、両親がいる。それだけで、何だか安心してホッとするから。
あんな映像を見た後だし、このままじゃなかなか寝付けないだろうと思い、父親が買い止めしてるビールを一缶飲む事にした。
普段、お酒など飲まないから、すぐに酔いが回り、そのまま部屋へ戻って眠る事にした。
2022年 4月7日
高熱が出た為、仕事を休む事にした。あんな映像を見たから?原因は解らなかった。お昼過ぎまで寝ても、熱が下がらずに、逆に上がって来たのだ。
39.8℃。病院へ行こうと調べたら、午後の診察は15時からだった。私は、時間まで布団で休む事にした。
時間になり、家から歩いてすぐの病院へと向かう。
解熱鎮痛剤を処方され、そのまま家に帰り、おとなしく寝る事にした。
寝る前に『たまたま検索してサイトを拝見しました。あの話、嘘だったんですね…』と、中野さんへメールを送った。
別に、嘘を付かれた事が嫌だった訳でも、許せなかった訳でもない。ただ、送った理由なんて特になかった。
母親の声で目が覚めた。
ご飯だよ、と声を掛けられたから、私は布団から出て、怠い体を引き摺る様に、リビングへと移動した。先に父親が食事をしている。
体調は大丈夫?と、二人に心配され、私は大丈夫とだけ答えた。
食事を終え、部屋へ戻ると、何時間か振りにスマホを確認した。
職場の人から、明日は出勤出来そう?と着ていたから、明日は行きます、そう返事を返す。中野さんからもメールが着ていた。
『本当の事を言ったら、怖がるかなと思って嘘を付いちゃった。ごめん』
私は、その後、何か変な事はないですか?とだけ返事をし、まだ熱が下がらないから早く休む事にした。
2022年 4月8日
目が覚めると、熱も下がっていて、体の痛みや怠さも昨日に比べたら楽になっていた。いつもと同じ様に、仕事へ行く前にシャワーを浴びてから準備をした。
化粧をしていると、母親が先に仕事に行くと言って、家から出て行った。
母親は、近所にあるコンビニで働いている。そこのコンビニには寄らない様にしているから、母親が働いている姿は見た事がない。ただ、近所に住む友達や親戚は、よく買い物に行くらしく、真面目に働いていると言う話だけは聞いた事がある。
化粧を終えて、部屋にカバンを取りに行った時、急に金縛りに遭った。
姿見があり、そこに愛奈の姿が写し出される。
愛奈の表情は、どこか冷め切って見える。口元が動き、何かを伝え様としている素振りだが、何を伝えたいのか解らない。
その瞬間、バリンッと、大きな音を立てて鏡が割れたのだった。
鏡が割れて、私の金縛りも解ける。
何だか息苦しさを感じ、水道へ急いで向かい水を一気に飲んだ。
再び部屋へ戻ると、開けていない窓が開いていて、風でカーテンが揺れている。
私の家は、マンションの10階だから、おかしいな?と思い、窓へ近付く。
開けた記憶などないし、これから出掛けるのに開ける必要などない筈。
窓を閉めようとした時、ベランダに何かが落ちている事に気付いた。
それを拾い上げて見ると、一枚の写真だった。
写真には、愛奈が写っていた。
愛奈が正門の前でピースをしている写真。その周りには、クラスメイトが数人いる何も変わりのない写真。
だけど、どうしてこんな写真がベランダにあるの?
ゾクゾクッと、鳥肌が立ち、その場から動けなくなった。また、金縛りだ…
耳元で声が聞こえる。愛奈の声だ。
『ほたるモ馬鹿ダヨネ。私ニ操ラレテイタトモ知ラズニサ…』
えっ!?どう言う事?だって、愛奈は…友達じゃないの?
『ククク…私ハ知ッテタンダ。ほたるガ他ノ子ト私ノ悪口ヲ言ッテタノヲサ』
否定が出来なかった。確かに、私は悪口を言っていたのだ。
それも、愛奈が私にしか話していない内容を盛って、みんなに話していた。
『ダカラ、私ナリニ復讐ヨ…』
いくら謝っても、愛奈は笑いながら私にしがみ付いて来た。
「ごめん…だって、愛奈が私の彼を…」
そう言おうとした瞬間、当時の彼との事が脳裏に蘇って来た。
あれは、一年の冬。私の彼だと知っていて愛奈は彼を奪ったのだった。同じクラスの彼を、私の目の前で…
私に比べたら美人だし、すぐに彼は私を捨てて愛奈に乗り換えた。そして、一か月後には彼は愛奈に捨てられたけど、それでも私は愛奈とは友達を装った。
いつか、復讐をしようと心に決めて。しかし、その前に愛奈は殺されて死んだ。
正直、嬉しかった。悲しい振りをしたが、心の中では笑っていた。
しがみ付いたまま愛奈が囁く。
『ほたる、最後二、何デ高校ニアノ男ヲイカセタカ教エテ上ゲルネ』
私は耳を疑った。しかし、もうどうにも出来ない状況。
行かせた理由は、中野さんが行く事で、愛奈の怨念が強まると言うのだ。
意味が解らない。正確に言うと、中野さんの友達がキーマンになっているらしい。
撮影をしていた男の人が。
それによって、愛奈の怨念が強く増殖し、私の体に触れる事が可能になったと言う。
振り解こうにも体が金縛り状態の為、振り解く事が出来ない。
愛奈が笑っている。
愛奈が笑っている。
愛奈が…
次の瞬間、私は愛奈によってマンションのベランダから突き落とされた…
それまで、しがみ付いていた愛奈の姿がスーっと消えた。
私を殺す事で成仏でもしたのだろうか?
それとも…
落下地点まで数十メートル。
声も出ない。
何も見えない。
何も聞こえない。
ただ、気が付けば私は…
グシャッ…
辺り一面、血の湖が広がる。
私は、今、愛奈によって殺された。
薄れ行く意識の中、私は静かに目を閉じる。
痛みなどない。
恐怖などない。
ただ、あるのは…
2022年 4月8日 AM8:28 大塚ほたる
自宅マンションから飛び降り自殺と判断を下される…
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