第4話 白羽の矢
アルニア皇国には皇子は三人、皇女は五人、合わせて八人いる。
一度戦場に出れば、最前線で味方を鼓舞し、鬼神の如く敵を薙ぎ払う。
現在は帝国と面する東国境を守る将にして、第一皇子。
ユリアス・イブ・アイングワット。
帝国一の知謀を持つオーキス宰相に並ぶ秀才。
現在は南側の国境を面するシャラファス王国に留学している第二皇子。
トレシア・イブ・アイングワット。
一日のほとんどを図書館で過ごす変わり者。
政治に関わらず、私服を肥すことも無い第三皇子。
ルクス・イブ・アイングワット。
国王の勇敢さと第一妃の美貌を受け継ぎ、隣国であるシャラファス王国王太子に嫁いだ第一皇女。
イリア・イブ・アイングワット。
同じく第一妃の娘であり、美しい容姿と腰まで届く絹のような黄金色の髪が特徴的な才女。
現在は王立修学院二年の第二皇女。
エリニア・イブ・アイングワット。
第二妃を母に持ち、ルクスの実姉である穏やかで常にマイペースな性格。
貴重な治癒魔術の使い手でもある第三皇女。
グレイ・イブ・アイングワット。
ルクスと同じく銀髪を持つ最年少九歳。
薄桃色の瞳が可憐な双子の皇女。
第四皇女、フィア・イブ・アイングワット。
第五皇女、シア・イブ・アイングワット。
仙国スオウはこの中の誰かを大使として国に招きたいと要求したのだ。
援軍を先に送ると確約された手前、この要求に従う以外の選択肢はない。
皇族は三百年続くアルニア皇国の王の一族。
その一人を大して交流のない国に送るのは躊躇われたのだ。
「既に援軍は我が国に向かっている。故にこの要求を拒否することは難しい…」
「しかし、皇族の誰かをろくに付き合いもない国に送るなど…」
「宰相殿はどうお考えか?」
大臣たちの問いに宰相は国王へと視線向けた。
釣られて視線が集中する。
「わしは宰相から事の次第を聞いてユリアスとも相談した。誰を送るかだが、ルクスにしようと考えておる」
初めて聞いた者達の顔が困惑へと変わった。
「陛下、本気ですか?」
「ルクス殿下は今まで政務に関わるどころか公の場にすら滅多に姿を現すことすらないのですよ?」
「それをいきなり大使として他国に送るなど不安すぎます」
大臣たちの言うことは概ね正しい。
王立修学院に通う年齢に達してないとはいえ、ルクスは今まで一度も王城の外に出たことがないのだ。
「我々も同じ考えを持ってはいますが、他に送れる皇族はいないのです。ユリアス殿下は国境防衛の要、トレシア殿下とイリア皇女は隣国、エリニア皇女は修学院在学中、グレイ皇女は貴重な治癒魔術の使い手、フィア殿下とシア殿下はまだ幼く国外へ送るのは現実的に不可能、となれば…」
ルクス以外に選択肢はない。
比較的に影響が少なく、人畜無害な点も適任という良物件だ。
しかし、大きな問題を抱えていた。
「故にこの会議の前にユリアス殿下にはルクス殿下の説得に向かって頂いたのですが…」
「案の定、図書館を動くつもりはなかった。説得もどこ吹く風だったぞ」
ユリアスの報告に全員の口から溜息が漏れた。
「問題はどう説得するかですな…」
「ユリアス殿下の説得が失敗した時に備えて予備策は既に打ってあります」
「宰相殿それは一体…?」
怪訝な顔を浮かべる一同に宰相が名を告げると全員が安堵した。
その名はアルニア皇国内で知らぬ者はいない少女の名前であった。
「安心されたようで何よりです。説得は彼女に任せ、我々は援軍を含めた戦力の確認や戦術の確認を致しましょう」
国の行く末を左右するこの会議は慎重かつ迅速に進められていった。
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