2:「行動計画 ~Plan~」


 朝食のあと、ミラさんがお茶を淹れてくれた。

 まったりしたいところだけど、話す内容は、


「――それで、本日の祐一くんのご予定は?」


 今日の行動方針についてだ。


「やっとホームセンターが見える距離まで来たので、なんとか辿り着きたいですね」

「りょうかぁい。でも、そんなところに行って何するのぉ?」

「武器と資材と足を手に入れたくて。あと、着替えも欲しいですね」


 武器は絶対に欲しい。と言っても日本で手に入るのは鈍器がいいところだろうけど。バットとか置いてるだろうか。チェーンソーがあるともっといいな。いや、素人が扱うのは無理かな。ネイルガンなら割と簡単に使えそうだけど、釘ってゾンビに効果あるんだろうか……。


 武器以外にも、角材や炭など、生きて行くのに必要になりそうなアレコレも集めておきたい。ついでに貸し出し用の軽トラ(そういうのがホームセンターにはあるのだ)を拝借できれば最高だな、と思っている。というか大量の荷物を抱えて移動するには自動車は必須だ。免許取っててよかった。


「着替えはその辺の――たとえばこの家で貰っていったらいいんじゃないのぉ?」

「なるべく厚手の丈夫な作業着とか上着とかがあった方がいいかなと思いまして」

「色々考えてるんだねぇ」

 

 感心した、としきりに頷くミラさんはひどく薄着なのだった。ひらひらしたワンピース姿で腕も脚も剥き出しである。


「私は日焼け止めが欲しいのよねぇ。手持ちがそろそろなくなりそうなの。ホームセンターに置いてあるかしらぁ?」

「たぶん、あると思いますよ」


 この非常時に日焼け止めって……。ミラさん余裕あるな。まあ、肌白いしなあ。胸とかもアレだったし。って、いかん。だめだ。起き抜けに見たを思い出してしまった。


「……」

「どうしたの? 急に前かがみになって。ご飯よくなかった? お腹壊したのぉ?」

「……ちゃうんです」


 恥ずかしくなって僕はテーブルに突っ伏した。


「しばらくしたら収まりますから」

「そぉう?」


 くそっ。鎮まれ。僕は実家の母と姉の顔を必死に思い出そうとした。






 一分後。僕が落ち着くのを待ってから、ミラさんは話を続けた。


「たしかにクルマがあったら移動は便利よねぇ。祐一くんはクルマを手に入れたらどこに行くつもりなのぉ?」


 高速道路はもう使えない。今や動かなくなった車輛とゾンビだらけだろう。だから国道や県道を使って、


「なるべくゾンビの少ない、それでいて生活していくのに苦労の少ない場所を目指したいと思っています」

「そんなところあるのぉ?」

「無いですよね……」


 人口の少ない山奥に行けばゾンビは少ないだろうけど、不便さは増す。だからと言ってそこら中でゾンビが徘徊している市街地で生きて行くのは無理だろう。感染経路がわからない状態でゾンビの側で暮らしたくはない。空気感染ならとっくに僕もゾンビになってるからそれはないにしても、接触感染であれば市街地に留まるリスクは高い。


「ミラさんは、その、どうします?」


 助けてもらって以降なんとなく一緒にいてくれているけど、ミラさんにも都合があるだろう。そう思って訊いてみたら、意外な答えが返ってきた。


「祐一くんと一緒に行っていいかしらぁ?」


 そりゃいいですけど、と僕が言う前に、


「私ね、県北のムラに住んでたんだけれど、私以外全員ゾンビになっちゃって」


 県北のムラか……。人口少なくてもゾンビ感染が起きたりするんだな。


「帰る所がないのよ。だから、ね?」

「は、はい! ミラさんさえ良ければ! 僕は全然!!」

「ほんとに? ありがとぅ~!」


 ミラさんは大袈裟に喜び、抱き着いてきた。

 押し付けられる体から感じる低めの体温と柔らかなアレコレに僕は赤面するばかりだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る