太もも柔い

午後1時、柳の家の呼び鈴を鳴らすかで迷ってる。


鳴らすしかないと分かってても、昨日の醜態が気まずくて押しづらい。


扉の鍵が開く音がした後に柳が出てきた。



「15分前から気になってたけど何を躊躇ってるの?」


...。


「あのさ、気づいたなら早く来いよ」


「躊躇ってる所見ると楽しくて眺めてたんだ」


これまた、良い笑顔を晒すのではないか。


「柳って意地悪なんだな」


「ごめんごめん。今日は、名物公園に行くと聞いたから、お弁当を作ってみた」


「へぇ、柳の腕前が楽しみだな」


「是非」


脅される原因となった場所でデートをする事にした。



「久しぶりに来たんだけど、自然一杯で気持ち良いね。」


「あのさ、やな」


「ねぇ、私のお弁当美味しくない?全然、進んでないけど」


柳に問いかけようとした時、止まってた俺の手を指摘した。


「そんなことないよ。美味しい」




定番の甘じょっぱい卵焼き、タコさんウィンナー、チーズが乗っかってるハンバーグ、ほうれん草とコーンのバター醤油、おかずになるきんぴらごぼう、ミニトマト。


お世辞抜きで全部が美味かった。


特に、卵焼きは母が作るよりも好みの味で感動してしまった。



「嫌いな物とかない?」


「ないよ。寧ろ、全部が美味しい。特に卵焼きが最高」


「卵焼き好きなの?」


「甘じょっぱさが最高!!」


「嬉しい」


本当に美味しくて、バクバクと箸を進めた。


「ご馳走様でした」


「お粗末さまでした」


行儀が悪いけど寝っ転がる


「お腹一杯で幸せ」


「あんなに美味しそうに食べてくれると、私も作る側として幸せ」


「気になったんだけど、俺の何処が好きなの?」


「んー。気になるなら、鈴木君の頭を私の太ももに乗せたら言うよ」


それって所謂...。


まぁ、役得で断る理由もないからやる。


感触が太もも柔けぇ。


「鈴木君は覚えてないと思うけど、実は私、入学式の時に鼻血を出したの。周りの人はクスクスと笑ってる中で、鈴木君は私にハンカチを差し出してくれた。その時から気になった」


入学式にハンカチ...。なんか、そんな事があったような?


「鈴木君って、品行方正なイメージを持たれるけど意外だったな〜」


「お酒とか?」


「うん。驚いたよ!!どうしてお酒を呑んだの?」


「辛くなったから」


「辛い?」


「...周りの想像するイメージの期待を裏切らない様にする事に、偶に疲れるんだ」


絶妙な力加減で頭を撫でられる。


「学校での鈴木君?」


「そう、優等生のイメージ」


「私は可愛い部分も曝け出しても良いと思うけどね。」


「可愛い部分ってなんだよっ」


「鈴木君が周りに出さない部分だよ」


「情けないだろ」


「可愛いですよっ。人間らしくて私は好きです」


「...そうかっ」


「気を張らなくても優等生な事に変わりはないと思うよ」


胃袋を掴まれたのか、それとも、この絶妙な手か柔らかな太もも、落ち着く声、男前だからか分からんが、俺は柳の傍が居心地が良いと思ってしまった。


単純な男だろうか。なんて、チョロさだと思う。


「なぁ、俺が明日からも付き合いたいと言ったら困る?」


俺は起き上がって、柳の顔を真っ直ぐに見た。


「分からない」


俺の質問に柳は困った顔をした。


「俺の事、好きでないのか?」


「好きだよ」


「それでも困った顔をしてる」


「...」


「数日前に俺が酒を呑んでる姿を写真に撮った筈なのに、久しぶりに来たんだな」


「うん。実は、写真を撮ったのは嘘」


「何で知ったんだ?」


「何故だろう?」


数秒、互いを見つめて無言になった。


「賭けをしない?」


「賭け?」


「私が月曜日を生きてたら、不思議な話をしてあげる」


「はぁ?冗談だろ」


まるで死ぬかの様な言い方。


「嘘で〜す!!まぁ、月曜日に学校で会おう」


「付き合わないの?」


「付き合って欲しいの?」


「うん。男前な柳に絆された」


「チョロくない?」


「うるっせぇ」


「鈴木君から告白されたい」


俺が口を開こうとした瞬間に柳の人差し指で止められた。


「月曜日に聞きたい」


「月曜日?」


「うん」


何故、こんなにも月曜日に拘るか分からない。


でも、真剣な眼差しで言われたら嫌だと言えない。








俺は後悔をする。

あの時、言えば柳は死ぬことは無かったのだろうか?

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