デート

放課後、誘われた場所に行くと先に柳が着いていた。


いつも笑顔を絶やさない彼女では無く、真顔_______不思議だ。


真顔だけど、何かに憂いてるように見えるし、僅かに微笑んでるようにも見える。


ただそこに立っているだけなのに、目が離せない位に存在感が溢れていた。


おかしい。


昨日から訳も分からない位に胸がざわついている。


「胸が痛いんですか?」


「いや、そんな事はっ」


いつの間に右手が左胸を抑えてた。



「来て下さって、ありがとうございます」


丁寧に頭を下げながらお礼を言われた。


「話って何?」


「好きです。付き合って下さい」


予想通りだ。


「ごめん。俺、恋愛に興味なくて...。ごめんね」


いつも通り告白を断る。


このまま大人しく引き下がれよ...面倒臭いから泣くなよと心の中で願った。


「期間限定で良いので付き合って欲しいです」


泣かれる所か真っ直ぐに俺の目を見て引き下がらない。


この子のタイプだと直ぐに諦めると思ったのにな...。


どうしようかと悩んでたら、柳は言葉を重ねた


「一昨日の20:00」


「ん?」


「名物公園」


ここまで言われて、記憶に掠ったのは自分の一昨日の夜の行動だった。


「柳は何が言いたいんだ?さっきから言ってる事がさっぱり分からない」


名物公園は、花畑エリア、遊具エリア、バーベキューエリア、大きな池でボートに乗れるエリア、テーブルとベンチが備えられてる休憩エリアと広大な敷地にあり、無料で誰もが何時でも利用できる。


毎日、家でも学校でも優等生の皮を被る俺の息抜きに、自然に囲まれたその場所で、隠れながらお酒を嗜んでいた。

勿論、俺だとバレないように変装もしたのにっ...。


とぼけるんですか?別に、良いですけどね。写真を撮りましたし?パソコンにバックアップ済みで、今度の学校でニュースのタイトルは『優等生の裏の顔』になるかもしれないですね」



「...ハァ、何が目的だ?」


イライラを隠せずに問い詰めた。


「今日の放課後と明日一日だけで良いのでデートして欲しいです。」


もう一度、ハァと大きな溜息を吐いた。


「分かった」


大人しいと思ってたんだが、こんなにも真っ直ぐに俺の目を見て強気で俺を脅す女。


「付き合うって、どこまでの基準か聞きたい」


「そうですね..」


少し間を開けて考える素振りを見せた。

俺は続けて、自分の要望を話す。


「キスとかそういう系の期待しないで欲しい」


「き、キス?....そういう系って...」


途端に顔を真っ赤にて慌てだした。


「そういうのは無しで大丈夫です。はい」


「そっか。なら良かった。今日の放課後と明日一日、柳に付き合えば写真を消してくれるんだろうな?」


「それは勿論」


まぁなんて良い笑顔だ。

本当に消してくれるだろうな?と不安しかないが、取り敢えずは信じて柳を満足させるしかない。


「理想のデートプランはあるの?」


「今日は私が、明日は鈴木さんが決めるのはどうでしょう?」


「良いよそれで」


「では、行きましょう」


「あ、堅苦しいの嫌だから敬語なしで」


「了解」



柳の希望でテーマパークに行く事になった。


テーマパークと言っても、高校生が行きたくなる場所ではなくて、幼稚園や小学生が喜びそうな遊び場である。


「高校生2人は〇〇円です」


俺が2人分の入場料の金額を支払って中に入ると、柳が俺の服の袖を掴んだ。


「どうした?」


「お金」


自分の分は自分で払いたいのだろうと気づいた。


「いい」


「でも」


「その代わり後で何か奢って」


柳は渋々と引き下がった。


デートの時は男が払うべしと母さんに叩き込まれたから、特になんとも思ってなかったんだが、柳が気にするなら缶ジュースでも奢ってもらおう。

不本意でも、デートはデートだ。代金を受け取って、万が一に母さんに知られたら...。


高校生向きでは無いと侮ってたが、俺は普通に楽しんでいる。


小さい時に、両親に連れてって貰って遊びに来た事あったから、懐かしたさとあの時に気づかなかった視点での新鮮さがあった。



次のエリアに行こうとした時に、柳はソワソワと落ち着きがない状態で周りを見渡し、女の子が泣いてるのを見つけた。


近くに両親らしきの人が居なくて、迷子なのであろうと近づいて聞こうとした時、柳は小走りで女の子の所に向かう。


「大丈夫?」


声を低くして落ち着いた優しい声で話しかけてる。


「あのね。ママが居ないの」


半べそで、合間にしゃっくりをしながら話してくれた。


「じゃあ、一緒に探しに行こう」


「いいの?」


「鈴木君も良いよね?」


「勿論。一緒にママを探しに行こう」


片膝ついて、右掌をギザに差し出す。


「王子様みたい」


女の子は泣き止んで、差し出した右掌に手を置いてくれた。


「では、姫のお名前をお聞きしても良いですか?」


「みき」


「みき姫行きましょう」


俺と柳は、女の子の手をそれぞれで握って、みきちゃんのママは居ませんか?って、迷惑にならない程度の音量で声を出しながら、迷子センターに向かった。


こんな、キザのやって恥ずかしくなるけど、自分ではない誰かを演じてると意識してたら大丈夫。


迷子センターで園内放送をしてもらって、無事にお母さんが見つかった。


「無事に見つかって良かったね」


「まぁ、そうだな」


休憩する事になって、ベンチに座った。


「ちょっと、御手洗いに行ってくるね」


なんか、女の子と遊びに来てる感覚が無く、はしゃいで楽しんでしまったなぁ。


脅されたとはいえ、デートなのにエスコート出来なかった。情けないとは思うが、楽しかったし柳も楽しんでたと思うから、まぁいいやと思う。


ぼーっとしてたら頬に冷気が当たった。


「冷たっ」


「イタズラ成功」


イタズラっ子の良い笑顔をみて、柳はこんな表情するんだなと学校では見た事ない表情に文句の1つ言えなかった。


「喉、乾くよね。どうぞ。後、小腹も空いたから一緒に食べよ」


「ありがとう」


渡されたのは、コーラとチーズが、かけてあるポテト。


「いくら位したの?」


お金を払おうと思って財布を取り出したら、手で制された。


「入場料を奢って貰ったから」


自動販売機のジュース1本をお願いしようと思ってたけど...。


まぁ、いいか。


「いただきます」




小腹を満たしてから、ここで1番高校生でも楽しめるコーナーに来た。


「なぁ、此処に入るのか?」


「苦手?」



「そんな事はねぇよ」


実はそんな事がある。


内心、嫌々で入る


怖くありませんようにと願ったのだが叶わなかった。

そして、悲しい事に俺は醜態を晒す羽目となった。

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