第187話 すべてを変える、小さな声⑥

「だったらどうだってんだ、骨」


 たかがには答えないと言わんばかりのⅠに対し、ポルッカも溜息を一つついて、こちらはあからさまに肩を竦める。


 が見ているのは群体としての人であって、1人1人じゃないな、ということを再確認するポルッカである。


『万が一運良くうまく行ったとしたら人の犠牲が少なく済むかもしれない。そんなものが君たちの正しさだとでもいうつもりか?』


「――違う」


 だから明確に否定する。


 そういうことじゃないんだと。


 俺たちは人の代表ではあるけれど、そんなに賢いわけでも、遠くを見て「種としての人の未来」を憂うような、お高い存在というわけでもないのだと。


「自分の意志で戦って、負けて死ぬのならしょうがねえ。だがその機会チャンスさえ与えられず、飼われるようにしてある日突然、戦えもせず死ぬのが真っ平ってだけだ」


 ただできるだけ納得して生きて、そして死にたいというだけ。


 歴史という俯瞰で人を見る立場の「超越者」からすれば、愚者の戯言でしかないことを言っているのはまあ理解できなくもない。


『その選択が、最終的に人の終わりにつながるとしてもか?』


 終わらない存在などありはしない。

 であればどう終わるかこそが重要だとも言えるだろう。


 いや。


「だからご丁寧に『連鎖逸失ミッシング・リンク』を仕掛けてくれたってんですかい? お優しいこったが、そんなこたあそれこその連中に任せるよ。俺らはただ、、目の前にいる大事な相手をどうにかしてえってだけだ」


 だけど、つまりはそういうことだ。


 そんな御大層な、種の在り方と終わり方のような話ですらない。


 を近視眼的と言われようが、今貴様の大事な人を犠牲にすることによって、未来の顔も知らない多くの人が救われると言われようが、従う気なんかハナからないのだ。


になって未来を語るよりも、歴史から愚者と貶められようと方こそが人だと、まあ愚かなおっさんは思うわけですよ」


『その結果、世界の在るべき姿から逸脱――』


 そう言うとポルッカは十三愚人のⅠが映し出されている表示枠から向き直り、黒の王ブレドの厳つい顔、そこに浮かぶ3つの「ゲヘナの火」を見据える。


 まだなにか言っている十三愚人のⅠの声にはもう、耳を傾けもしない。


「黒の王。俺たちの顔を立てるために「人の手を借りる」という状況にしてもらったのにこんなことになって申し訳ない。だができるかぎりのことはやらせてほしい。――頼んでよろしいか?」


 人の力によって、人の世界を護る。


 天空城の力を借りねばどうにもならない部分は任せるしかないとして、無数の天使が顕現する部分だけは人の手を借りるていを取ってくれたことにポルッカは言及している。


 実際、天空城ユビエ・ウィスピール下僕しもべたちだけではすべての人を護りきることができなかったことは事実だが、だからと言って『連鎖逸失ミッシング・リンク』を取り除き、人の力を伸ばす必要などないのだ、本来は。


 それをポルッカは、指導者の立場にいる者たちはよく理解している。


 放置されればどうなるかなど、馬鹿にでもわかる。

 ただ恩を売りたいだけであれば、できるかぎりの人を救って見せさえすれば生き残った人は黒の王ブレドに対して地に頭をこすり付けて感謝するだろう。


 それこそ馬鹿でなければ、自分たちの生殺与奪の権を握られていることも理解できようし。


 つまりそこに在るのは、人の味方であろうという黒の王ブレドの意志のみなのだ。

 それを敵に利用されたとて、人が強くなることに助力してくれた事実が揺らぐわけではない。


 それにまだ結果が出たわけではない。

 ここからひっくり返してみせればいいだけのこと。


「任されよ、自らを愚者と称する人の代表」


『まて――』


 どこか愉快げに請け負った黒の王ブレドに対して、賢しらな『愚人』はまだなにか言っているようだが相手をしている場合ではない。


 実力行使に出るというのであれば黒の王が止めてくれるだろう。


 人は今忙しくて、上から目線の超越者の相手をしている時間などないのだ。


 なにしろこれから、仲間たちの目を醒まさせなければならない。

 必要であれば、横っ面をひっぱたいてでもだ。

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