第121話 とあるおっさんの覚悟②
そのことを自覚したからには、覚悟を決めねばならんとポルッカは懊悩している。
明後日ポルッカに振られている役割は『
今まではそういう矢面役も、ヒイロに泣きついてやってもらってきていた。
少女王スフィアとの会議も、『アーガス島侵略戦』における舌戦も、それ以外にも細かいところまで含めれば、自分でそうだと思えることは山ほどある
ポルッカは「自分は事務方」だと思っているし、そういう点では冒険者ギルドの執行役員となった時も、それどころではない立場にあれよあれよという間になった時も、なんとか最低限の義務はこなしてきたという程度の自信はある。
ヘンリエッタ嬢を筆頭に、これもまたヒイロに用意してもらった優秀な侍女さんたちに助けられてのこととはいえ、自分の仕事としてできる限りのことはしてきたつもりだ。
――だがこれからは、それじゃあ足らんか。
それを今夜、思い知らされた。
ヒイロへ直接ものを言える人間を増やすべきではない。
また、明後日の『世界会議』で自分たちがやろうとしていることを、ヒイロたち『天空城』勢が主導していると思わせるのも得策ではなかろう。
あくまでも力持つ存在の信頼を手に入れた、ヒトの組織こそが世界を左右するという態だけでも崩すべきではない。
明後日に行われる必要な
憎まれ役はやはり必要で、今それに一番ふさわしい位置に立つのは自分だろうとポルッカ本人でさえそう思う。
虎の威を借る狐としてヒトの世を良い方向へ動かしながらも、きちんといい思いをしているということも表に出す。
程度にもよるが、わかりやすい欲に適度に溺れている方が、ヒトらしくてある意味安心されるというのは確かにそうなのだ。
理想だけを掲げて、清廉潔白に突き進む者は多くの凡人たちにとっては気味が悪い。つい最近まで、仕事終わりの一杯だけが楽しみであったポルッカにはそれがよくわかる。
ヒイロから聞かされている、数年以内には必ず発生する『天使襲来』とそれに対する備え。
それをスムーズに進めるためにこそ『世界会議』を行い、大陸を統一して事に当たることが当面の目的だ。
ラ・ナ大陸の統一は少女王スフィアのもと、ウィンダリオン中央王国によってなされることに既に決まっている。
ポルッカはお題目に聞こえる大目的をぶち上げつつ、ウィンダリオンの貴族として、冒険者ギルドのトップとして、誰からも羨まれる利益を享受する。
『
その時代を代表する成功者、代名詞にポルッカはなる必要があるのだ。
時に清濁を併せ呑み、一部の者たちには蛇蝎の如く嫌われることになってもだ。
「へンリエッタ嬢に、告白するかぁ……」
そこまで思い至った上で、ポルッカはなかなかに俗な結論へと達する。
本来の自分には合わぬ役どころだとは思うし、気が進まないのも事実だ。
だが誰かがやらねばならないことであるのは確かだし、少なくともヒイロの側からは打算なく気のいいおっさんとして扱われている自分が適任でもあろう。
そういう覚悟を前提とすれば、セヴァスやエレアといった頼りになるヒイロの下僕たちが自分に協力してくれるという確信もある。
だったら今のポルッカに必要なのは、なんのためにそれをするのかという理由――動機付けだ。
順当に振られても、もしもうまくいっても。
そうすればなにものでもない、ただの一人のオッサンである「ポルッカ・カペー」としての覚悟は決まると思うのだ。
冒険者ギルドの総ギルド長でも。
アーガス島独立自治領の御領主様でも。
大陸を統一することになるウィンダリオン中央王国の貴族御当主様でも。
虎の威を借る狐として、利益をむさぼる大躍進時代の顔役ですら。
惚れた女の為、もしくは振られた
それで十分、ヒイロたちと共に歴史を築いていくという面白さだけでは足りない部分は埋まるだろう。
その方が「世界のため」などと嘘くさいことを口にするよりも、よほど自分らしいじゃねえかと思うポルッカなのである。
その覚悟をもって、ポルッカは明後日の『世界会議』に臨む。
今後
今日からの三日間で、この世界に生きる者たちの幾人かがポルッカのような覚悟を決める。
そのいくつかの覚悟をもって、世界は「実在しない歴史」とは異なる歴史を辿り始めることとなる。
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