第109話 黒の王④
「
そういう真の黒幕ともいうべき存在は、上位世界で俯瞰しているだけではなく、実際自身も世界に存在しているというのがある種のお約束だが、そこは今はまだいい。
この世界での暮らしをブレドは気に入っている。
そうとなればさっさと「ゲーム・マスター」を引っ張り出し、それが望む「
あるいはプレイヤーたる自分が「なにものか」になることを期待されているのであればさっさとなっておきたい。
現世に干渉しながら下僕たちと共にいられるのであれば、神になる事すら厭うつもりもない。
というかM.M.O系やハクスラ系のゲームとくれば、メインシナリオクリア後の強化やアイテム集めこそが本当の愉しみ所でさえある。
それが現実化したこの世界でやれるというのなら、ブレドとしてはさっさとそこを目指したいのだ。
この世界を支配する存在が、必ずしも『
『黒の王』として与えられた力を上手に使い、ブレドとゲーム・マスター双方が望む
それがもしもゲーム・マスター――神の代替わりであっても条件次第では受け入れてもいい。
だがまだ今はまだ序盤。
であればお約束を外さなければ、いきなり「GAME OVER」にはまず至ることはないだろう。
すなわち己からの行動は基本的に世界をよい方向へ導くことを軸とし、己の意に依らず発生するイベントに対しては力で退ける。
そして黒の王の中の人は重度のゲーオタの一人として、ここまで手間暇かけた「ゲーム」がそんなクソゲーだとも、最低限のルールさえも存在しないゲーム以前のシロモノだとも思っていない。
そこはもう、大前提とするしかないのだ。
もしもこの世界が勝手に引きずり込んだプレイヤーに絶望を与えるためだけの舞台装置だったとしたら、どうしようもない。
神さえ屠り得る力であっても、プレイヤーにとっては最悪の、それを嗤うことが目的の存在にとっては最高のタイミングで取り上げられるだけだろう。
つまり考えるだけ無駄なのだ。
であれば現プレイヤーである己が思う理想的な展開を押し通すしかない。
「レベルが高ければ絶対に勝てるなどと、思い上がらぬことだ!」
蟲の集合体が己の支配する無数の蟲をあたり一面に展開し、フードの奥から一つのアイテムを発動させる。
広がる光を受けて蟲たちが強化され、巨大化する。
それはおそらく、『静止する世界』の中で動くことを可能とし、下僕の技・能力や魔法を無効化するものと軸を同じくするもの。
効果は「レベル差を無視して攻撃を通す」と言ったあたりか。
それは本当にそういう効果を持っているのだろう。
だが序盤でお約束となれば、プレイヤーは必要な能力は必ず得ていて、使い方さえ間違わなければ対処可能となっているからこそのお約束だ。
「プレイヤー必敗のイベント戦闘が発生するには、条件が揃っていないとは思わんか? 貴様らはただ踊らされただけに過ぎん――――ベアトリクス!」
「はい!」
「わたしも、いるよ」
『黒の王』の呼ぶ声に、SD化したベアトリクスと、ついでにエヴァンジェリンも答えて左右にポンと現れる。
各々が倒した十三愚人はすでに『黒の王』から渡されていた封印石に封じている。
『黒の王』が呼んだのはベアトリクス。
その目的は運営の憑代たる『
ベアトリクスが『白光』を発動させると同時に、蟲の集合体が発動させたアイテムの光は失われる。
元であるとはいえ、十三愚人はプレイヤーと同じ扱いを受けるらしい。
あくまでも今のところは、という条件は付くのだろうが。
「――なんだと!?」
そうなれば蟲の集合体も、単眼少女や球体関節人形と同じく『天空城』、それもその首魁たる『黒の王』の敵たりえない。
十三愚人たちが自分たちで分析していた通り、彼我の戦力差は絶大なのだ。
『黒の王』が無詠唱で呼び出した漆黒の焔が、蟲の集合体が展開した蟲を呑み込むようにして焼いてゆく。
「殺しはせんよ。それこそ後に貴様らが欠けていたらクリア不可能な戦闘を仕込まれても困るからな。だが踊らされている者の
情報が必要になればその時に聞く。
今ただ垂れ流されるだけの情報は、その情報そのものが仕込みの可能性もあるとブレドは判断している。
「――あぁあぁぁ!!!」
己の蟲たちを伝って本体にたどり着いたブレドの黒い焔が、蟲の集合体のフードを焼き、本体をも呑み込んでゆく。
その姿は意外なことに蒼い肌をしてはいるが、美しい少女のものだった。
だがブレドの焔は焼くことを止めたりはしない。
焼き尽くしたのちに、封印石の美しい宝珠へと蟲の集合体を封じる。
予定外の十三愚人の襲撃は収めた。あとは予定通り『世界会議』を成功させるだけである。
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