第108話 黒の王③

 己の力をもってそれを否定するしかないのだ。


 暴力でも言葉でも魅力でもなんでもいい。

 己が意を通せる手段を力と呼ぶのであれば、それはどんなカタチをしていてもかまわない。


 蟲の集合体のは『黒の王』に響かない。

 であれば、あとは暴力で捻じ伏せるしかない。


 『黒の王』が身に纏う漆黒の雷光が周囲を覆い、蟲の集合体のフードの中から無数の蟲が霧のように溢れ出す。


 現実化した「T.O.T」世界におけるプレイヤーと元プレイヤーの決着は、やはり「戦闘」をもってしかつかないのだ。


 力で己の意志を押し通せと『黒の王』は告げ、元プレイヤーである蟲の集合体がそれを受ける。


 これこそが期待されている展開だろう、とブレドは思う。

 誰にかはまだわからない。


 現実化された「T.O.T」の世界を肌で知る必要性を、初期からブレドは感じていた。

 そうしなければ自分が率いる『天空城』勢が、この世界にとって度し難い厄災そのものになる可能性が高いと思ったからだ。


 自分がまず愉しむという目的が嘘というわけではないが、分身体をもって「冒険者」としての暮らしを初手から行ったのはその理由も大きい。


 もっとも厄災となるそうなること、そのものを忌避しているわけではない。


 自分にとって必要であれば、世界の敵となりこの世界すべてを蹂躙することも厭わない。

 だがそれはこの世界で日々を一生懸命生きるヒトたちが実際にいるということ、それを知った上でもそうするという、明確な意思決定をしたいというだけだ。

 

 うっかりで世界の敵になるのは出来るならば避けたい。

 そしてそんな展開は、おそらく期待されてもいない。


 一方で現実化した世界に呑まれ過ぎて、これがあくまでもゲームだということも忘れないようにしようとも思っている。

 どれだけとんでもない事態であれ、自分にとっては現実化したとしか思えない状況であれ、この世界の基礎ベースは「T.O.T」――『世界の舞台――Theatrum Orbis Terrarum』というゲームであることは疑いようも無いのだ。


 だからこそ技・能力や魔法のみならず、レベルやステータス、それを支える経験値という概念がこの世界を支配している。


 ゲームである以上、「世界の終焉エンディング」へ至る条件は必ずあるはずだ。


 一方でそれが「幸福な結末ハッピーエンド」とは限らず「不幸な結末バッドエンド」――「GAME OVER」になり得ることも十三愚人――元プレイヤーたちの存在が示唆している。


 そして今のところ、まだだれもこの世界において「目的達成クリア」に至っていないのは間違いない。

 だからこそ十三にまで愚人たちの数は増え、『黒の王』と『天空城』が次のNEXT挑戦者PLAYERとして選ばれたのだから。


 『黒の王』の中の人は重度のゲーマーである。


 終劇エンディングのないネット系ゲームの存在には慣れているが、そこまでに出された目的はすべて達成クリアしたくなるのがゲーマーという生き物だ。


一時中断セーブ」や「継続やりなおしコンティニュー」は許されていないようだし、愚人の一人としてゲームに取り込まれるのも真っ平だ。


 だからこそ必ず真の「世界の終焉エンディング」へ到達して見せる。


 そして今までにブレドがとった行動とそれに対する対応を見る限り、ゲーム・マスターともいうべき存在が、かなりフレキシブルにプレイヤーの行動に呼応してきているのは間違いない。


 運営の憑代である『凍りの白鯨』の投入や、シナリオの早回しに対する十三愚人――元プレイヤーによる介入がそれにあたるだろう。


 「T.O.T」というコンピューター・ゲームを基礎としているが、そのあたりはまるで「会話型テーブルトークR.P.G」のようだとブレドは感じている。

 いやネットゲームであるからにはそれも当然なのかもしれない。


 そうとなれば一つの仮説が成り立つ。


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