第042話 ヒイロのお願い②
「嘘を言っても仕方がないので、正直に言いますね」
とはいえここを誤魔化すつもりはない。
悪の権化になるつもりもないが、無償の正義の味方を気取りたいわけでもない。
『白姫』――『凍りの白鯨』に告げたとおり俺はけっこう俗物で、それを誤魔化して生きていくつもりは毛頭ない。
「お題目を並べても仕方ありませんし、難しいことを言うつもりもないんです。――
「もし、そうでなければ?」
俺の回答に、表情を変えることなくアルフレッドさんが問いを重ねる。
「叩き潰します」
俺もはっきりと答える。
アルフレッドさんは表情を変えないが、アンヌさんやお姉さま方はさすがに蒼褪める。
そりゃそうだろうとは思う。
だけど街のチンピラや冒険者という個人であろうが、冒険者パーティーであろうが、ギルドや商会であろうが、たとえそれが宗教や国家という巨大組織であったとしても。
『
すべての国家を統治して平和を与え法を布き、それに逆らうものすべてを殲滅して『
あくまでも俺の価値観にそって愉しく生きられればそれでよく、それを邪魔する相手は叩いて潰すというだけだ。
とはいえ「俺に逆らったら、わかってるな?」と同義であることも否定できない。
「なるほど、よくわかった。基本的には私と変わらないので安心したよ」
「そうなんですか?」
だけどさっきと同じように、しばらくじっと俺の目を見ていたアルフレッドさんは本気で安心したようにそう口にした。
予想外の応えに、素で問い返してしまった。
「私だって自分の気分次第で自由にできるモノを、けっこうたくさん持っているからね。ヒイロ君はそれを「世界」にさえも適用できるだけの「力」を持っているということだろう? ――根っこの部分は理解できない考え方ではないさ」
俺のその問いに対して、そう言って苦笑いする。
力を信奉して生きる世界のヒトたちは、そういう考え方をするものなのか?
いや、アルフレッドさんが特殊な気がする。
間違いない。
その証拠に、アンヌさん以下女性陣はまちがいなく引いてるし。
ただ「力持つ者の責任」とか言い出されるよりは確かに少し気が楽になる。
やりたい放題絶頂の好き勝手と、己の望むような方向へ世界を引っ張ることをいっしょくたにしないようにだけは気をつけよう。
「まあホッとしているのは正直なところかな? 私たちを助けてくれたということは、ヒイロ君にとってこの世界は
そんなえらそうなものでもないんですけどね。
俺としては世界を巻き込む陰謀とかは全部叩き潰して、ただの冒険者としての生活を愉しめればそれでいいってだけなんです。
アルフレッドさんたちと、できれば仲良くしたいと思っているのは嘘じゃありませんが。
それに助けたと言っても、対価が何もないというわけでもない。
「それについては……謝らないといけないことがあるんです」
申し訳なさそうに言う俺に対して、さすがにアルフレッドさんもアンヌさん以下女性陣も深刻な表情を隠すことができない。
そりゃそうだ、自分の命がかかっていることだもんな。
助かったと思っていたら時間制限でやっぱり死にますとか言ったら多分、直接手を下したディケンスさんよりも俺のほうが呪われる。
もちろん『
逆はあるが。
鳳凰の再生は、それを受けた者に永続的な
ただのヒトに比べて圧倒的な回復力を持つようになり、かすり傷程度であれば見ているうちに治癒するし、普通であれば致命傷となる傷であってもHPが0にならない限り死に至らなくなる。
寿命が延びるわけではないがほぼ不老と化し、寿命による死の寸前まで全盛期の能力を維持できるようにもなる。
要は身体面に関して、限りなくプレイヤー、もしくは
そんなヒトが普通に
勝手に超人、悪く言えば化け物にしてしまった事は申し訳ないが、一度失った命を取り戻すための対価だと思っていただければ助かるなー、などと勝手なことを思いながら説明を終える。
「私たち
アルフレッドさんが自分の体を確認しながらも、さすがに驚愕を隠さない。
さりげなく「も」と言っているあたり、『天空城』というものを正しく認識してくれているのがわかるが、なんか複雑だな。
アンヌさんやお姉さま方も、さすがにこの話にはびっくりしているようだが、不老の部分にアルフレッドさん以上に反応していたことは見なかったことにする。
「つまり私たちは、やはり
アルフレッドさんは理解がはやい。
別に問題ないかとも思う一方、自分以外に歴史の本来の流れに影響を与える存在は極力減らしたいとも思っている。
俺の知る世界との乖離と、俺の取った行動は出来るだけ直接つながっていてほしい。
ノイズとなり得る存在は極力避けたいとなれば、目立つということもあるがやはりアルフレッドさんたちパーティーには前周と同じく、今の時点で
アンヌさんぎょっとしてますけど、本当にもう一度死んでくれというわけじゃありません。
やってほしいこともちゃんとあるし、個人的な繋がり程度であれば問題もないとも思っている。
要は公的に――歴史に「死」と認識されていればそれでいい。
「少なくとも対外的には……すいません」
そう言う俺に、助けてくれたことに変わりはないよと言ってくれるアルフレッドさん。
まあ確かに死んで終わりに比べれば、身体強化も表舞台から姿を消すことも些細な問題なのかもしれない。
「私たちの世界に対して、ヒイロ君の気に入らない干渉をしている存在――敵がいるってことだよね。それが『
「まだ敵が一つとは限りませんが、ほぼほぼその通りです」
当面の敵についてはそう深刻視していない。
今も例の「組織」とやらから辿って、背後にいる存在のいくつかに『
想定よりも迂闊ものは多いようだ。
泳がすのかその場で殲滅するかの判断はこの後俺がすることになるのだろうが、直接的な行動に出ることはできないだろうし泳がせてみるのもいいだろう。
数が多いようならいくつか残して殲滅すればいい。
どちらにせよ今までヒトの世の
アルフレッドさんの言葉を借りるなら、
問題はその繋がった先。
「では表向きは死人となる私たちは、ヒイロ君のために何をすればいい?」
世界のためとは言わないあたりがアルフレッドさんらしい。
それにそんなことを言われたら俺も困ってしまうだろう。
俺がアルフレッドさんに頼むことは、確かに世界のためなんかじゃなく俺のためなのだから。
「強くなってもらいたいのです。この世界に生きるヒトたちの、誰よりも」
答えた俺のお願いに対して、アルフレッドさんが目を見開く。
現在セヴァス率いる近衛軍が
そこを拠点として攻略可能なヒトの手が入っていない
それが
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