第034話 惨劇①
アーガス島
現存する
当然未だ
それすらも先日の『
そんな状況下の中、例外のパーティーが存在する。
「さて。あれだけの大見得を切ったからには、最初の第六階層突破の栄誉くらいはもらわないとね」
涼しげなその声に合わせるように、いつも通り自分たちは無傷のまま、今まで
『
「兄様、嬉しそう」
前人未到と言っていい迷宮深度を攻略している最中とは思えぬとびっきりの笑顔を浮かべ、『
先の戦闘はアルフレッドの多重展開された『
自分たちの
「それは当然というものだよアンヌ。あれだけの才能が迷宮攻略に加わってくれたのだ、喜ばずしてなんとする」
それはアルフレッドも同じなのだろう。
自分たちの戦術が第六階層でも完全に機能することを確認できたこととはまた別の、自分が嬉しそうである理由を口にする。
ヒイロが冒険者として、ごく真っ当に迷宮を攻略していることが嬉しいのだ。
『
タイミングから考えても、こともなげに『
だが実際に逢って話した結果、アルフレッドはヒイロをきちんと冒険者だと思えたのだ。
背景もわからないし、とんでもない力を隠しているかもしれない。
だが単純に強さを求める「仲間」だと信じられた。
それが嬉しいのだ。
「私たちも負けてはいられませんね」
「アンヌの言うとおり」
だからこそ、先駆者としては足を止めている場合ではないとも思っている。
偉そうなことを口にしたからには、いや口にしたからこそたゆまぬ努力と前進を続けなければならない。
それこそが『
誰よりもはやく、より高いレベルに到達したいと思っている。
そうすることで、他の
倒せぬまでも犠牲を出さずに戦える今の自分たちがより強くなれば、それが現実になるとアルフレッドだからこそ信じることができる。
その可能性とそれが与える世界への影響に、胸が高鳴ることを抑えられない。
「それに私の奥ゆかしき妹姫が、あんな表情を見せるのは初めて見たものな。兄として負けてはおれん」
「兄様!」
再び顔を真っ赤に染め、腕を下に突き出すようにしてアンヌが抗議の意を示す。
家族以外の男性はまったく苦手としていたアンヌが、ヒイロに見蕩れていたことを言っているのだ。
ヒイロと同行していた間、アンヌの顔がずっと赤かったのはそのせいである。
「はっはっは、人間図星をつかれると怒るモノなのだな」
兄として一抹の寂寥も感じながら、妹が女の子としてある意味真っ当な感情を持ちえたことにほっとしてもいるアルフレッドである。
ちなみにアルフレッド・ユースティン・フィッツロイは、ヒイロが疑っているような「プレイヤー」ではない。
もちろん妹であるアンヌもだ。
才能に恵まれ何の疑いも持たずに己の夢を追いかけている、幸せで恵まれたヒトというだけだ。
知り得た情報から常人には不可能な推測をすることは可能でも、全く白紙の状態から正しい答えを導き出すことなどできるはずもない。
『
『
それが正鵠を射ぬいていた場合、そうしている存在が持つ力がどんなものであり、それと相対した者がどう扱われるのか。
己の分析とそれが本当である可能性の高さに舞い上がって、アルフレッドにはそれが見えていない。
ヒイロが危惧したのはそこなのだが。
「でもほんとに綺麗な子でしたよね」
「正直見蕩れた」
「整った容姿の殿方は、アルフレッド様で見慣れているんですけどねー」
「向こうは中身もまともそうでしたよ?」
ヒイロとの同行時は一言も話さなかった四人が、それぞれに感想を口にする。
ここ最近、美人を見慣れていると言っていいヒイロをして「綺麗どころを揃えている」と思わせた四人共に、ヒイロの容姿には度肝を抜かれていたのだ。
自分で相当な美少年に分身体を仕上げたくせに、鏡が常にあるようにでもしないとそのことを失念しがちになるのは、ヒイロの「中のヒト」としては無理なからぬことであろう。
自分がそういう意味で注目されることに慣れていないからだ。
ちなみにアルフレッドが自分のパーティーを女性で固めているのは男性を苦手とする
女性メンバー四人が四人とも、ドレスを着せて夜会に出せば貴族の御令息たちでも手玉にとれそうな容姿をしているのは、本当に偶然の産物なのである。
当人たちがそれを自覚しているかどうかは別問題ではあるのだが。
ただ綺麗な女性たちにちやほやしてほしいのであれば、アルフレッドならば夜会に出席してエキセントリックな言動を控えればそれで済む。
それにそういったことは「真っ当な大貴族の令息」を
ヒイロとは価値観を近くしながらも、本質的には仲良くなれない人物かもしれない。
「OK、それ以上は私の
長い付き合いで気心の知れた仲間からのダメ出しを、笑顔でアルフレッドが躱す。
「それにそういう君たちも、一言も口を利かずに無表情を貫くなんて
そしてキッチリ反撃もする。
それに対して「おねーさんとして、赤面してたらカッコつかないじゃないですか」とか「話しかけて、もしもあの顔で微笑まれたりしたら腰砕けになる」などと、女の子としての沽券に関わるので沈黙を維持したのだということを主張している。
「兄様
ヒイロに見蕩れていたのが事実とはいえ、アンヌは兄であるアルフレッドに心酔している。
冗談であることは充分以上に理解しているし自分だってヒイロに見蕩れていたくせに、アルフレッドが
ただし本音が隠しきれていない。
「も、と来たか」
「も、と来ましたね」
「うぅう……」
アルフレッドとお姉様方にきっちり拾われて、両手で顔を覆って呻くしかない。
自身の内に初めて芽生えた感情が、ここまで自分を愚かにすることに戦慄を禁じ得ないアンヌと、それを見て微笑ましい兄とその仲間たちである。
だが油断をしているわけでもない。
『索敵』
『索敵』に
必要な
――だが。
キン!
という高い金属音と共に、前衛である二人の騎士の一方――長い桃色の髪をしたブリジットの『
「全周警戒!」
その攻撃に即応したアルフレッドの発した一言で、全員が瞬時に戦闘態勢に切り替える。
前衛である騎士二人が、攻撃の来た方向へ進み盾を構える。
弓遣いは矢をつがえいつでも放てる体勢を取り、それにアンヌがいつでも『
短剣遣いは万一に備えて後方を警戒。
それと同時にアルフレッドが『
全員の表情が、さっきまでの物とはうってかわって真剣極まりないものになっている。
先刻倒した
そもそも
それにさっき牛頭人身の
『
それが一撃で消し飛ばされるとなれば、尋常な状況ではない。
そしてそういう状況をアルフレッドたちは、ある意味嫌というほどに
――『
それがここアーガス島の迷宮、その第六階層
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