第10話 帰宅

 光安先生とのカウンセリングを終え、唯は下校した。他の生徒たちが停める駐輪場とは反対側の、職員通用口のすぐそばに自転車を置いてある。前カゴに少し乱暴に鞄を投げ込み、唯は自転車を回す。登下校の時間は唯にとって気晴らしの時間だった。元々体を動かすのは嫌いではないし、頬が風を切る感覚が気持ちいい。それに、この時間はだれにも邪魔はされないで済む。15分ほどで家に着き、唯は自転車を停めた。


 ああ、疲れた。今日も4時間くらいしか学校にいなかったのに、どうしてこんなにも疲れるのだろう。2階へ上がり、唯は自室のベッドに横になり天井を仰ぐ。昨日もそうだったが、学校から帰ってくると1時間ほど動けなくなる。体は怠く、重い。昼食を摂るのにちょうどいい時間だったが、唯は横になったままでいる。


「唯?帰ってるの?」

 母親の声と、階段を上がってくる音がする。ノックの音はせず、そのまま扉は開いた。

「あら、おかえり。お昼は食べた?」

 唯は首を横に振る。

「そう。焼きそば食べる?」

 今度は縦に振る。

「じゃあ作っておくから、いい時に食べなさいね」

 そう言って母親は部屋を出た。春日井医院は家の近所で、お昼休みには帰ってこれる距離にある。必要以上に気にかけない母親の距離感は唯にとって心地が良かった。少しづつ、眠気が襲ってきた。1週間ぶりの登下校は唯にとって大仕事だったようだ。少し眠ろう、そう思う頃には目を閉じていた。


「ただいま」

 二階まで聞こえてくる声は父親のものだ。唯はその声で目が覚め、同時に胸のあたりがギュッとした。息が整うまで、布団の中でいよう。唯は目をつむり呼吸を整えようとする。階下からは微かに母親の声、そしてそれをかき消すような父親の良く通る声が聞こえる。そのたびに胸のあたりがギュッとなる。ギュッとなる胸を押し殺すように、体を丸めじっとする。この方が少し落ち着く気がする。


「唯、ご飯よ」

 母親が呼んでいる。

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