第8話 優しそうな子

 第一印象は優しそうな子、だった。髪は肩ぐらい、前髪は眉にかからないくらいで分けられている。穂希より小柄でおとなしそうだが、決して静かではなさそうな印象を持った。

 穂希は春日井さんをソファへ促した。おずおずと座るその姿はやはり積極性は感じられないものの、芯の強さが見て取れる。

 まず初めに、家族の話が聞きたい。穂希はそう切り出した。

「お父さんと、お母さんと、私の三人暮らしです」

 春日井さんの話を、穂希は本人に見えないようにバインダーへ書き込んでいく。

「お父さんはお医者さんで、病院を持っています。母はそこで事務をしています」

 鈴が転がっていくような、コロコロしたかわいらしい声で春日井さんはそう話す。

 ―病院は何科なの?

「整形外科です。おじいちゃんの代からやっています」

 少し春日井さんの表情が暗くなったように見える。

 ―ペットを飼っていたりする?

「飼っていません。小さい頃は犬や金魚を飼っていました」

 ―そうなんだ。じゃあ犬派?

「ハムスターが好きです」

 ちょっと変化球が来た。春日井さんはハムスターが好きなようだ。

 ―ハムスター可愛いよね。どんなところが好きなの?

「ジャンガリアンって知ってますか?ちっさい手のひらに収まるくらいのハムスター」

 そういって春日井さんは手のひらを穂希へ向けた。小さく華奢だが、すらりとした綺麗な手だ。

 ―知ってるよ。灰色とか青っぽいのがいる小さいハムスターだよね

 穂希がそう言うと、春日井さんの口角がほんの少し上がった気がする。

「そうです。ジャンガリアンが好きなんです。ピンポン玉みたいで動きの一つ一つが小さくてとてもかわいいんです」

 鈴の音は華やかになった。春日井さんはとても嬉しそうにジャンガリアンを語ってくれる。少し切り込んでみよう、穂希は話題を変えることにした。

 ―今はジャンガリアン買う予定はないの?

 少し表情が暗くなった。

「お父さんが、ハムスター苦手なんです。ハムスターだけじゃなくて、ほんとは犬も飼いたくなかったらしくて」

 ―そっかそっか、それはちょっと残念だね。お父さんとはどんな関係なの?


「お父さんとは・・・」

 

 鈴の音が止んだ。

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