第5話 スイッチ
理科準備室は薄暗かった。
「春日井の机はここにしようか」
そう言って古賀先生は大机に積んであった古い教科書たちをどけた。埃っぽいのが少し気になった。古賀先生は気にしていないようだが。
「今日はとりあえずゆっくりしてくれたらいいから。まずはここに慣れていこう」
古賀先生は急がせなかった。
「じゃあ、先生は授業の準備があるから」
そう言って、古賀先生は第一理科室へ行ってしまった。ああ、薄暗いなあと思いながら唯は椅子に座った。
窓の向こう側にはグラウンドが見える。奥の方に野球のバックネットが見えてそのさらに奥にテニスコートが見える。手前にはトラックがあり、体育をしている生徒たちが見える。左手には校舎と同じくらい古めかしい体育館が建っていた。そういえば、こんな理科準備室なんて場所があるだなんて思ってもみなかった。あるのは知っていたけれど、こんな景色だなんて知らなかった。こんな場所に登校している自分が少し不思議で面白かった。
電気を点けたいな。唯はそう思った。日差しの入ってこない準備室は手元が見えづらい。なんとなく触ってみたら埃っぽい。窓際にある水道の蛇口は奇妙なほどに細くて頼りない。こんなところでやっていけるのだろうか。
あった、電気のスイッチ。押してみる。準備室の東半分に明かりがともった。しかし唯の席は西半分にある。準備室は左右対称のレイアウトをしているようだから、きっと反対側に同じスイッチがあるだろう。ない。そこには年季の入った棚しかない。ちょうど古賀先生が入ってきた。
「なにしよん。ああ、そういえば電気点けてないな」
一緒に探すことになった。しかし北側は窓、南側は棚が占拠しておりスイッチが存在する場所がない。
「隙間とかにないかなぁ」
棚と棚の間をくまなく探すことにした。あった。
準備室入って右、奥から1と2番目の棚の間にスイッチはあった。
理科準備室の、春日井唯の席に明かりが点いた。
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