4章 東北の一件

高中を本社に置いて先行し東北支店に到着した滝沢は、実態の把握に向け書類と格闘していた。


滝沢『出荷の明細が多すぎてなにがなんだかわかりませんよ…。』

滝沢は事故を起こしたタイヤの出荷先を探していた。


そこへ東北支店の経理である鞠井さんが顔を出した。


鞠井『なにをしているんですかー。』


滝沢『事故を起こしたタイヤの出荷先を特定したくて調べているのですが書類が多くて……。』


鞠井『取引先のデータから照合した方が早いかもしれませんよー。こちらでも調べてみますね〜。』


滝沢はおっとりした鞠井さんの作業速度が心配であったが、任せることにした。


鞠井『それにしても出荷先なんて調べてどうするんですー?』


滝沢『とりあえず販売店の方に話を聞いてみようかと思いまして。』


鞠井は難しい顔をして答えた。


鞠井『販売店にも迷惑をかけているから、素直に話してくれるとは思えませんけど…。』


滝沢はたしかにと思ったが、気を引き締めて作業に戻った。


鞠井がおっとりした話し方からは想像できない速度で作業に取り掛かっている。


一件、二件と出荷先が特定されていく。


5件目まで特定したところで、鞠井の顔が青ざめた。


鞠井『滝沢さん、これ見てください。』


滝沢『なにこれ…事故を起こしたタイヤの出荷先は、すべて同じ中古車販売会社…??』


何かが起きている。


滝沢は背筋が凍るような恐怖を覚えた。


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株式会社ユーズドカー


関東、東北、関西を中心に全国に展開する中古車販売店で、ここ数年で急成長を遂げ、大手に立ち向かえるほどの規模になった会社である。


滝沢『うちが持ってる資料から特定した情報では、エコライフを装着した事故車の全てが株式会社ユーズドカーから購入された車両であると。』


鞠井『そのようですね。私は怖いのでこれ以上関わりたくありません。』


滝沢『そうですね、でも助かりました。ご協力ありがとうございました。』

滝沢は鞠井へ行き先を伝え、一人で株式会社ユーズドカーの店舗へ向かった。


滝沢『大きな店…。』


株式会社ユーズドカーの店舗は、真新しく綺麗で設備も整っているようだった。


滝沢が店に入るや否や、店員の大きな挨拶に店の活気を伺えた。


滝沢『株式会社ランディアの滝沢と申します。アポは取っていませんが店長とお話をさせていただけませんか?』

滝沢が店員に声をかけると、意外にも快く応接室へと通された。


店長『ランディア様がうちになんのご用事でしょうか。』


滝沢『当社が開発したタイヤが原因の事故の実態調査をしておりまして、もしうちのタイヤの在庫、または事故車がお店にありましたら見せていただけないかと思いまして。』


店長『在庫はありませんよ。事故車も当店には保管しておりません。あっ、ただ別の店舗でエコライフを装着した中古車の出荷がありますね。物好きな方もいるものですね。』


滝沢『いつ出荷されるのでしょうか。見せていただけますか?』


店長は手慣れた様子でタブレットを操作する。


店長『えー…4時間後、ここから1時間程度の距離にある店舗です。』


滝沢『わかりました。ご迷惑をおかけしたにも関わらず親切にしていただきありがとうございました。』


滝沢が退店し、社用車に乗り込もうとしたところ、突然頭に強い衝撃が走った。


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高中は一足遅れて東北支店に到着した。


高中『鞠井さん、滝沢さんはどこ?電話に出ないんだけど。』


鞠井『滝沢さんなら株式会社ユーズドカーに話を聞きに行っていますよ。』


高中『あー、先方と話しているから電話に出ないのか。やることないし俺も行ってくるわー。』


高中はゆっくりと社用車に乗り、滝沢のいる株式会社ユーズドカーへと向かった。


高中『それにしても全然連絡つかないな。なんの話をしているんだろ。』


程なくして高中は目的地へ到着した。


駐車場にはランディア東北支部の社用車が停まっていた。


高中『お、これ滝沢さんが乗ってた車だな。よし、さっさと合流しよ。こんちはー!』


店長『いらっしゃいませ!あ、滝沢さんですか?1時間ほど前にうちの別の店舗にむかいましたよ。』


高中『えっ?駐車場にうちの車、停まっていましたよ?』


この中古車販売店にはなにかある。


そう確信し、身構える高中であった。


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高中は東北支部の鞠井へ連絡し、ことの顛末を話した。


鞠井『とりあえず会社支給の携帯電話にGPSアプリがあるので、それで居場所を調べてみましょう。』


高中は鞠井教えてもらった通りに操作をし、滝沢の居場所を調べた。


高中『なんだこれ、峠道の途中だ。』


鞠井『すぐに向かってください!』


高中『わかった!鞠井さんに一つ頼みがあるんだけど!』


高中は鞠井に頼み事を伝え、滝沢の元へと向かった。


細い峠道、慎重に車を走らせていると向こう側から歩いてくる女性がいた。


高中『あ、滝沢さん!なんで普通に歩いてるの?頭怪我してる!早く乗って!』


滝沢『なんなの本当に、信じられない。ずっと気を失っていてちょうど今歩き始めたところ…どうしてここがわかったの?』


高中『携帯から場所を割り出したんだよ!いいから早く病院に行こう!』


滝沢『病院はだめ。多分これは時間稼ぎだよ…わたしたちを向かわせたくない場所があるんだ…。』


高中『でも……。』


滝沢『株式会社ユーズドカーのエコライフをこの目で見ることのできる最後のチャンスだから…。』


高中『わかった。でも滝沢さんは東北支部に置いていく。俺一人で行ってくるから。』


高中は東北支部で滝沢を降ろし、目的の店舗へと走り出した。



----------


 

株式会社ユーズドカーへ向かっている高中は、不安な心情を押し殺していた。


必ず何かある。滝沢を襲った人物もユーズドカーの関係者で間違いない。


納車の15分前、なんとか高中は目的の店舗へ到着した。


店舗の駐車場には、新品のエコライフを履いた軽自動車が一台停まっていた。


高中『店長います?店長とお話させてもらえませんか?』


店長『はい、何かございましたか?』


高中『株式会社ランディアの高中と申します。これから納車する車両にエコライフが装着されていると聞きました。エコライフには重大な欠陥がある恐れがあり、新しいものをお持ちしましたのでお使いいただければと思い伺った次第です。』


店長『わかりました。ありがとうございます。』


高中『今ついてるものはうちで回収致しますので。』


高中が鞠井に頼んだのは、新品のエコライフを準備してもらうことだった。


それにしても店長はあっさり交換を受け入れてくれた。拍子抜けする高中であった。



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高中は無事納車される車両に新品のエコライフが交換されたことを見届けた。


高中『鞠井さんありがとう。エコライフを用意してもらったおかげで原因のタイヤを手に入れることができた。』


安心して店舗を出ると、急いで駐車場から出るトラックがいた。


小島運送…??


高中は社用車に乗り込み、東北支部へ報告に向かった。


……………


???『なぜ勝手なことを?』


???『すみません…ランディアの人がいたので…もしかしてバレたんじゃないかと思って怖かったんです…』


???『お前があの女を殴ったことで裏に誰かがいると伝えたようなものなんだぞ。ところで最後のエコライフはきちんと納車されたのか?』


???『それが…ランディアの人が新品のエコライフと交換してて…』


???『チッ……まさか、気づいたのか?いや、まさかな……』


……………

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