002
リトから報告が届いたのは翌日の午後、陽も暮れかける頃だった。
「今回見付けた群は残念ながら蝶々魚に従属する群れではないようです。とはいえ、どうも良いように言い包められて使われたみたいですけどね。切れても痛くないデコイって感じで」
「てことは」
「はい。現在南西の海岸沿いで領域警戒中だった班が交戦中。相手の詳細はまだ不明との事。また南の砂地にも怪しい動きが見られます。今の処北方はまだ静かなようですが……」
周辺の敵性勢力が一斉に動き出している。手を組んだ訳ではないだろう。なんならグランツの領域を狙っての動きですらない。ただ同時期に領境で怪しげな動きを見せるように仕向けられただけ。だが、そうと予測は出来ても無視するわけにはいかない。領境をうろちょろされるだけで此方としては警戒に人手を裂かなければならない。
「メトならともかく、カーマも踊らされてんのか?口の回る蝶々だとは聞いてたけど手は組んで…ないよな」
ザフキは心底うんざりと頭を掻いた。
北の戦狂いは単純だ。戦略もクソもない、ただ力で押し通す。最大戦力を惜しみ無く投入した精鋭部隊が高い機動力で常に先陣を切り開く。魚の数も多く、まともにぶつかればまず勝てない。だがいくらでも出し抜ける。そこから考えれば、少し頭と口の回る者なら彼らを好きに動かす事は可能だろう。
南の戦神はそうはいかない。統率の取れた群は個々の錬度も高く、魚でない相手でも侮れない。群れとして強く、戦略的に運用されている。彼らが踊らされているとは思い辛いが、なにより、カーマは他の群れとの馴れ合いを拒む。実際ザフキも何度か和平や共闘を持ち掛けたが尽く蹴られてきた。カーマの領域を越えてグランツにちょっかいをかけてくる蝶々魚に友好的とは思えない。手を組んだというのはもっと想像し難かった。
「どちらの可能性も視野に入れておきましょう。まあしかし、珍しく且つ厄介なタイプの敵ですね蝶々魚は」
交渉上手な魚だとは聞いていた。だからザフキは一切会ったことはない。口を開かせたら負けだ、くらいの気持ちでいる。
「下手すると、武力を用いず世界を喰らい尽くすかも」
「そんなにか!?」
「さぁ大袈裟でしたかね。でも実際、現在の奴の領域は結構な大きさですよ。戦があったなんて聞こえてこないのに」
大して噂にもならない小競り合い程度の戦闘でどんどん領域を拡大していっている。何度か持ち掛けられた会談を了承していたら今頃グランツも飲まれていただろう。
「本命は何処だか」
「現在反応が見えてる部分はどれも違う気がします。それぞれあくまで領境の維持に徹し深追いはしないように指示してありますが」
煽るだけ煽って決定的な一打は避ける。焦れて踏み込んだら此方の敗けだ。
「リトは北への警戒と対処を頼む。沿岸の防衛は私が出る。その分兵を山岳の見廻り強化に充てる。南部はユタに任せる」
「解りました。いつ出ます?」
「夕飯摂ったらすぐ」
それまでに支度を整えるべく、ザフキはすぐにその場を去った。一人残ったリトは
「北よりも、警戒した方がいい処は他にある気がするけどね」
側にいても聞き取れないような声量で呟くと、振り払うように頭を振って部屋を出ていった。
あぁ
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