ゴミみてぇな俺

 情けなくて、吐きそうだ。憎悪と悲嘆にまみれながら、俺は濁った川を見下ろした。深夜の河川敷には、誰もいない。俺の周りにも、誰もいない。

「死にてぇな……」

 ぽつりと一言、そうつぶやいてしまうと、本当に死んでやろうかという気分になった。大学受験に失敗してから、何もかも上手くいかない。仕事も人間関係も、何一つ好転しない。それはきっと、俺が精神病だからだ。医者から聞いたが、名前は忘れた。無理やり忘れて、現実から逃避した。

 生きていても、意味がない。クズやゴミ、それ以下だ。思えば思うほど、そんなフレーズが浮かび上がってくる。悲しすぎて、涙も出ない。ため息をついて、頭を抱える。

「……もう、よく分かんねぇよ」

 やる気もないし、気力もない。生きていても死んでいても、何も変わらない。そういう病気なんだ、俺は。……死にたい、死なせてくれ。そう願いながら、俺は赤い橋から身を乗り出した――。


「やあ」

 ――俺は心臓が飛び出そうになって、思わずさっと身を引いた。同時に、自殺を止められた気分になって、無性に腹が立った。

「誰だよ、てめぇは!!」

「ひどいよなぁ、かなめくん。俺のこと、また忘れちゃった?」

 コンビニの袋を揺らしながら、そいつは俺を見てクスクスと笑う。俺を馬鹿にするみたいに、クスクスくすくすと。袋に入った鬼の面も、俺のことを嘲っている。

「かなめくん、社会人になったんだね。見ないうちに、立派になったね」

 やつは馴れ馴れしい態度を取ると、俺の頭に手を置いた。ガキをなだめるみてぇに、優しい手つきで髪を撫でやがる――。

「触んじゃねぇ!!」

 ――俺は脳ミソに血が上って、そいつの手を力任せに叩いた。冷たく刺さる空気の中に、ばちんと激しい音が通る。

「あ……」

 やつは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐににこにこと笑い始めた。俺に叩かれた左手をさすりながら、ニコニコにこにこと。

「そうか、そうだよね。かなめくんも、大人になったんだもんね」

 やつは口角を上げながら、俺の手の平に冷たい何かを押し当てた。……尖った先端に、滑らかな柄。両手に収まるほどの、小型のナイフだった。

「おいで、かなめくん。目の前の『鬼』を、倒してごらん」

 ――俺はもう、頭がおかしかったんだ。気づいたときには、そいつの白いしろい肌を、薔薇のように真っ赤に濡らしていた。

「あああああぁぁぁぁぁっ!!」

 俺は何度もなんども、何度もなんども、そいつの皮膚を裂いた。俺を止めるやつは、誰もいなかった。俺たちを阻むやつも、誰もいなかった。

「か、なめ、く……」

 ……そいつは小さく微笑むと、血だらけのまま動かなくなった。俺はついに、人を殺してしまった。


「あ……、あぁ……!!」

 俺はナイフを放り出して、無我夢中で走り去った。――幸い、近くには誰もいなかった。だから俺は、誰にも見つからなかった。そして……、いくら怯えて、いくら待てども、警察が俺の家にやって来ることはなかった。

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