第2話 記憶
私は生きていた。だが死んだのは事実。これは夢ではなく現実であると私は確かにある意識の中で感じていた。
生きを吸うことが出来る。
匂いを嗅ぐことが出来る。
音を聞くことが出来る。
風を感じることが出来る。
そして目を開けることが出来る。
そこは、森であった。森のど真ん中とも言えようか。
暗く、静かで、どこか寂しい雰囲気もある。私は記憶力は良い方だが、この森に来た覚えは無かった。強いて言えば写真や動画で見たことがあるくらいだ。
そんな森に私はただ一人で取り残されていた。
だが、誰かに置いて行かれた。迷ってしまった。という記憶は無い。私は目を覚ますと此処にいたのだ。
「腹が減ったな……」
理由はどうであれ、今の状況は遭難したと言っても間違いはないだろう。だが、今の私にはこの状況を打破する手段も物もない。白のYシャツに、黒のツーツーと黒のスーツズボン。それと革の靴。
仕事に行くときに誤って線路内に落ちた時と同じ服装。
勿論、朝食は食べてきた。だが私はまるでここ一週間程、何も口にしてこなかったかのように腹が減っていた。
更に片手に仕事用の鞄を持っていたが、生憎その中に役に立ちそうな物は入っていない。
個人用のノートPCと会社の書類だけだ。
私は適当な木の幹の元に座り込み、鞄からノートPCを取り出し、電源を付けて見るも、当たり前のように圏外。
特に目ぼしいものは無いので、ノートPCを閉じ、私は立ち上がり、食糧を探すことにする。
暫く途方もなく森を彷徨う。この森には獣道があったので、その道をただ無心で辿っていく。
暫くして私は腹を空かせた狼と出会った。食糧の発見だと思うが、狼に勝てるような道具は持っていない。
近くに武器になるような石や太めの枝も見当たらない。
あぁ、私は死ぬのだろうか。このまま狼に食われて死ぬのだろうか。
どうせ私には生きる気力はない。私は今までの人生で生きたいと思ったことは無い。
別に仕事が辛いだとか、人間関係が劣悪という訳でもない。
私はただ単に生への執着が昔から薄いのだ。
きっと狼に殺されるのはとても痛いことなのだろう。私には恐怖がなかった。死ぬことに恐怖は無く、痛みに恐怖を感じなかった。
「グルルル……グアアァァッ!」
狼は私に飛び付き、勢いよく首の肉を喰い、千切る。私の首から大量の血が噴出する。意識が遠のいていく。
肉を食われ、吸われ、最後に骨を噛み砕かれる感覚。
その瞬間に私の意識は……途絶えなかった。
【狼に出会い、唸り声と私の知らない恐怖が周りを包む。狼は私には飛び付き、口を開けて大きな牙を見せる。狼は私の首に噛みつき、肉を食い千切る。すると首から血が飛び散り、私の知らない激痛が襲う】
私は堪らず声を上げるが、それは私の声では無かった。
「うあああああ!!!!」
【狼を首から離そうと踠き苦しみ、狼を片手に掴み引っ張る。しかし、その引っ張る力で首は完全に食い千切られ、私では無い何者かが死に至った】
そのような映像が私の脳内で恐怖と激痛が合わさってフラッシュバックする。私はその瞬間に激しい全身への痛みと、冷や汗がどっと出るほどの恐怖を感じた。
だがそれはすぐに冷めた。直後、何故痛みと恐怖を感じていたのか深い疑問へと変わる。
私は気がつくと、バラバラに肢体が散った狼の前に立っていた。
DEATH AUXESIS Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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