第22話 宴会

 私達は、街の人達に案内されて建物の中に入っていった。建物の中にはテーブルが並んでいて、食事も用意されていた。料理から湯気が立っているので、作りたてだと分かる。美味しそうな匂いもしていた。


「お嬢様、こちらに」

「うん」


 ゲオルグが私を守るようにして、前を歩いてくれた。それから、他の皆も固まって移動する。


 ラインヴァルト達は、別のテーブルに連れて行かれた。彼らが向かったテーブルに街の人達が集まる。彼らは、とても人気者だった。


「貴方達も、こっちに座って!」

「どうぞ、どうぞ」


 私達のいるテーブルにも街の人達が何人か居て、接待してくれている。誘導された席に座った。すると、こう言われる。


「貴方達の分も用意してあるの。お腹、減っているでしょう?」

「どうぞ、遠慮せずに召し上がって下さい!」

「たくさん用意してあるので、満足するまで存分に!」

「え、えぇ……。ありがとう」


 凄い勢いに圧倒される。だけど確かに、お腹は減っていた。


 目の前に美味しそうな料理が並んでいる。用意してもらった料理を、言われた通り遠慮せずに食べ始める。庶民が口にするような料理を皆と一緒に、私も食べた。


 旅を始める前までの私は、屋敷や貴族のパーティー以外の場所で食事をしたことは一度も無かった。


 家を追い出されてから、いくつかの街を経由して旅する間に、庶民のお店に入って食事することを覚えた。今では、慣れたものである。


「さぁ、乾杯しよう!」

「街を救ってくれた英雄達に、乾杯!」

「本当に感謝しているのよ!」

「もう、恐怖に震えなくていいのねッ!」


 野太い男の声が聞こえてきた。誰かが声を上げて、コップを掲げて騒ぐ。すると、街の人達が次々と盛り上がっていった。熱気を感じるほど、皆が狂喜乱舞している。この街はそれほどまで、あの盗賊団に酷く苦しめられていた、ということかしら。


 ラインヴァルトは、英雄と呼ばれて取り囲まれている。この騒ぎが収まるまでは、彼らと話せそうにないわね。


 しばらく食べることに集中して、お腹を満たしておこう。私達は、街の人達が喜び叫ぶ様子を眺めながら、食事を楽しんだ。


 けれど、なぜここまで歓迎してくれるのかしら。少しだけ、不安な気持ちになる。街の人達には、何か目的があるようだ。その目的が何なのか、分からないけれど。

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