第23話 山分け

「こちらです」


 宴会が終わり、街の住人だという女性に別の建物まで案内された。街の人達が宿も用意をしてくれていたらしい。わざわざ男女別に、とても快適そうな部屋を。


「宿代は、いくらですか?」

「お支払い頂かなくても結構です。この部屋は、ご自由に使って下さい」

「いやいや、そんなわけには……」

「いえいえ、どうぞ休んで下さい」


 ゲオルグが宿代を支払うと申し出たが、案内してくれた人は無料で泊まってくれていいからと、代金の受け取りを拒否した。しばらく問答を続けたけれど、彼女は宿の代金を断固として受け取らなかった。


 やはり、何か目的がある。その予想が当たっているような気がする。私達は、何を求められているのか。何をさせられるのか。警戒しながら、一夜を明かした。




「お嬢様、ラインヴァルト様がいらっしゃいました。お話があると」

「わかったわ。お部屋の中に入れて頂戴」


 翌朝、ラインヴァルトが訪ねてきたらしい。ようやく、落ち着いてお話することが出来るわね。あらためて昨日のお礼も、言わないと。部屋の中に彼を招き入れる。


「朝早くから、すまないねカトリーヌ。ちょっと、話しておくことがあって」

「大丈夫です。話したいこととは、なんでしょうか?」


 装備を外して、ラフな格好で部屋にやって来たラインヴァルト。彼は、右手に袋を持っていた。それを、テーブルの上にドンと置く。その袋は、ずっしりとした重さがあるようだった。


「これは、昨日の盗賊団討伐で支払われた報酬の半分で、君たちの受け取る分だ」

「え? 報酬?」


 何の話か、一瞬わからなかった。彼の言ったことを理解したら、即座に受け取りを断る。私達が、報酬を受け取る理由なんてないから。


「そんな、受け取れませんわ!」


 袋を開けると、中に金貨が入っているのが見えた。それを、私達にも分けてくれるという。けれど、それを私達が受け取る資格はない。盗賊に襲われていたところを、助けてもらったのだから。報酬は全て、彼らが受け取るべき。


 しかし、ラインヴァルトは首を横に振った。


「いやいや、君たちが居てくれたお陰で手に入った報酬金だからね。カトリーヌたちにも、半分は受け取ってもらうよ」

「いいえ、受け取れませんわ! だって、私達は何もしていませんから」

「どうしても?」

「はい、どうしても」


 何とかして報奨金を分けようとしてくるラインヴァルト。私は、何度も受け取りを拒否する。どう考えても、やっぱり私達が受け取る理由がないから。


 旅をするために、お金が必要なのは分かっている。ゲオルグたちにも迷惑をかけている。だけど、理由もなく受け取ってしまうと、道理に反する気がして嫌だった。


 折り合いがつかないまま、ラインヴァルトとの話し合いが続いた。


「……わかった。この報奨金を、君たちに渡すのは諦めるよ」

「そうですか。よかったです」


 とうとう、彼のほうが折れてくれた。絶対に受け取らない、という意志が伝わったらしい。これで話は終わりそうだと思って安心していたら、ラインヴァルトは続けてこう言った。


「これを受け取ってくれない代わりに、一つお願いを聞いてくれるかな?」

「なんでしょう? 私に出来ることなら聞きます」


 お願い事とは何か、私は聞き返す。それは、予想していなかったお願いだった。


「カトリーヌも、俺たちの旅に同行してくれないか?」

「え?」

「君には、俺と一緒に来てほしい」


 質問して返ってきた答えは、旅に同行して欲しいというような願いだった。一体、どいうことなのかしら。

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