第14話 約束

「……くっ! 分かった。他の奴らは見逃してやる」


 リーダーの男が悩んだ結果、提案を受け入れた。私以外の者たちは、見逃してくれるらしい。これでゲオルグたちを助けることが出来そうだと、私は安心する。


「テメェら! 絶対に手ぇ出すんじゃねぇぞ」

「だけどよ、兄貴。見逃して良いのかよ」

「馬鹿野郎が! ラフォン家の娘だぞ。そいつの身代金だけで俺たちは、一生遊んで暮らせるぜ」


 おそらくラフォン家に身代金を要求しても、支払われることはないだろうと思う。だけど、大丈夫だろう。ゲオルグたちを逃したら、私は死ぬ気だった。支払われないと分かった時には、もう私は居ない。


 助けようとしてくれた人たちを、最期に助けてることが出来た。それだけで、私は満足だった。


「お嬢様、我々は、戦います……!」

「盗賊なんかに負けませんッ!」


 まだ、私のことを助けようとしてくれるマイユやケーテ。彼女たちだって怖いはずなのに、武装している盗賊に挑もうとしている。


「カトリーヌ様だけでも、逃げてください」

「俺達が、なんとしてでも囮になります。そのうちに」


 ゲオルグとタデウスも、私を助けることを諦めていない。必死になって、私を逃がす方法を考えてくれている。だけど、私は首を横に振った。


「ダメ! 私の命より、貴方達に生き残ってもらうのが優先よ」

「ですが!」

「お願い、逃げて……」

「ッ!」


 抗議するゲオルグに、逃げてくれとお願いする。


 悔しそうに表情を歪める執事と御者の男たち。泣きそうな顔のメイドたち。彼らが無事に生き残ってくれることを願う。


「さっさと、こっちへ来い!」

「はい」


 自分の首に突きつけていた弓矢を下ろして、リーダーの男の指示に従う。盗賊たちの居る方へ歩いていく。身柄を拘束されるのだろう。盗賊の男たちに近寄り、奴らの手が私の身体に触れようとした瞬間だった。


「おい! そいつらも絶対に逃がすなよ! 約束なんて、無しだ!」

「そんなッ!」


 約束は、あっさりと破られてしまった。彼らを信じるべきではなかった。


「やはり! お嬢様を助けるぞ!」

「おう!」

「お嬢様、逃げましょう!」

「私も戦うわ!」

「危ない! 皆、逃げて!」


 盗賊たちがゲオルグとタデウスに矢を向ける。射て殺すつもりだ。殺させない。


「駄目ッ!」

「うおっ!? なんだ、こいつ」

「おい、離せ。痛い目に遭うぞ」

「うぐっ!」

「お嬢様!」


 近くに居た男に体当りをして、少しでも彼らが逃げられるように時間を稼ぐ。髪の毛を引っ張られて痛むが、離さない。頭を殴られたが、邪魔をする。


 その時だった。


「ぐあっ!?」

「な、何事だ?」


 盗賊の1人が、うめき声を上げて地面に倒れた。それに慌てる、リーダーの男。


「戦うつもりの無い奴は、地面に伏せろッ! 襲われていた者たちも!」


 姿を見せない何者か、若い男の声が森の中に響き渡る。私は、その声の指示に従い地面に伏せた。誰か分からないが、指示に従ったほうが良いだろうと判断して。


「クソッ! 敵だ!」

「誰だ! 出てこいッ!」

「矢は、向こうから飛んできたぞ!」

「そこに隠れているのか!?」


 盗賊の男たちは突然の出来事に戸惑いながら、あちこちに視線を向けて声の正体を探す。必死になって、攻撃してきた人物を探し出そうとする。


「隠れてないで、出てこいッ!」


 だけど、見つけられないようだ。森の奥、木々の間から聞こえてくる声。正体は、まだ分からない。


 そしてまた、聞こえてくる正体不明の若い男性の声。


「斉射ッ!」

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