第11話 目的地に向かって

「王都を出たら、どこへ向かう予定なのですか?」


 馬車を走らせている御者のタデウスに尋ねる。前を向く彼は、手綱をさばきながら楽しげな声で、目的地について答えてくれた。


「我々は今、カキニユ修道院領に向かって走っています」

「カキニユ修道院領って、王国の東にある教会の土地ね」

「そうです。そこにある、修道院までお嬢様をお連れします」


 すると、執事のゲオルグが追加情報を教えてくれた。


「教会には、ちょっとした知り合いがいるので」

「ゲオルグの知り合い?」

「そうです。その方に頼めば、悪いようにはしないでしょう」

「わかったわ」


 教会の知り合いという方が、どういう人なのかは分からない。実際に会ってみて、私はどう感じるのか。


「カキニユは、いい土地ですよ。自然が豊かで、住民も自由気ままな気風の人が多いので、過ごしやすいと思います」


 一緒に馬車に乗っているメイドの一人、マイユという名前の女性がカキニユ修道院領について教えてくれた。


「マイユは、行ったことがあるの?」

「はい。実は私は、カキニユ生まれなのです」

「そうだったの。楽しみだわ」


 教会が所有している土地ならば、ラクログダム王国のレナルド王子と出会うこともないだろう。タデウスたちは、そこまで考えてくれたのかしら。


 レナルド王子は、おそらくもう私のことなんて気にしていないと思う。


 だけど、なるべく出会わないようにしたほうが良いだろう。王国には、もう二度と足を踏み入れることは出来ないわね。




 まだ私は、彼らに騙されているんじゃないかと、少しだけ疑う気持ちがあった。


 私を騙して、何処かも分からないような場所まで連れて行かれて、酷いことをさせられるんじゃないかと。外のことなんて何も知らない、元貴族の無知な小娘を。


 だけど、わざわざここまで騙す必要もないだろう。騙すことが目的なら、手が込みすぎている。タデウスたちの表情にも、嘘を感じない。本当に気遣ってくれている。


 彼らの行為が本物だと、ようやく信じられるようになった。だからこそ、罪悪感も大きくなる。本気で助けてくれようとしている。私が幸運だなんて、嘘なのに……。



 いくつか街を経由して、休みも少なく馬車を走らせ続ける。長旅でどんどん疲れが溜まっていく。他の人達は、甲斐甲斐しく私なんかのお世話をしてくれて、私よりも疲れているだろう。


 だから、目的地に到着するまで私は、あまり彼らの迷惑にならないよう静かにして旅に同行していた。



 しかし、私が迷惑にならないように注意しても、問題は起こってしまう。


 それは、突然だった。何処かの森の中を通る道を走っている時に突然、乱暴そうな男の声が聞こえてきた。


「おい、お前らぁ! ここは通行止めだぜ。止まれッ!」

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