第10話 今後の方針 ※ラフォン家当主視点
ラフォン家の当主であるクレマンスは、執務室で一人きりになり考えていた。
娘のカトリーヌが屋敷から出ていった。せっかく、レナルド王子という最高の婚約相手を用意してやったというのに。まさか、破談されるとは予想していなかった。
不運を振りまく存在という噂を流された時点で、駄目だったな。アイツは本当に、噂通りの不運な存在だったのだろう。
筆頭執事だったゲオルグも、カトリーヌと一緒に行ってしまった。執事を辞めたいと言ってきたから、了承してやった。まさか、娘と一緒に行くために辞めるだなんてクレマンスは予想していなかった。
ゲオルグと一緒に、他にも何人か仕事を辞めていった。そいつらも、カトリーヌと一緒に出ていったらしい。本当に愚かな奴らだ。心の底から、そう思うクレマンス。
ラフォン家の屋敷で働ける栄光を捨て去り、縁を切って貴族でなくなった、ただの小娘であるカトリーヌについていく理由が、クレマンスには分からなかった。
理解不能な奴らが、勝手に出ていってくれた。そう考えて、彼らのことは記憶から早々に消し去る。
それよりも、クレマンスには急いで考えないといけないことがある。居なくなった筆頭執事の代わりを任命しないといけない。
筆頭執事の仕事は屋敷の管理だけでなく、ラフォン家に関する重要な仕事を任せることがある。だから、なるべく有能な人物を選び出したい。
ゲオルグは、それなりに優秀だった。彼の代わりが出来る人材は、それほど多くは居ないとクレマンスは考えている。ある程度、妥協しないといけないか。
「こいつ、かな」
クレマンスは呟き、バジルという人物について書かれた紙を手に持ち、吟味する。
彼は、ゲオルグの後継者として育成されていた執事の一人だった。まだ若い青年。だが、なかなか優秀なようだ。筆頭執事を任せても大丈夫なぐらい、実力がありそうだとクレマンスは判断した。
「ふむ……」
しかし、ゲオルグが言っていたことを思い出す。筆頭執事を彼に任せるのは、まだ早いと言っていた。もうしばらく、経験を積んでからじゃないと不安だと。
「いいや、彼を筆頭執事に任命する」
自分の都合で屋敷から出ていった者の意見なんて、考慮に値しない。
ゲオルグが居なくなってしまったから、その穴埋めを誰かに任せないといけないのだから。
「後は、もう一つの問題か」
カトリーヌとレナルド王子の婚約は破談になってしまった。だけど、それで諦めるのはもったいない。今まで投入してきた資金を考えると、ここで手を引くことなんて出来ない。
ならば、別の誰かを推すしかない。ラフォン家には、マティルドという娘がいる。今度は、マティルドをレナルド王子の新しい婚約相手に薦める。
投入した資金を無駄にしないために、上手く立ち回らなければ。今度こそ、婚約を破棄されないように。カトリーヌと違って、マティルドは愛嬌がある。社交界で変な噂も流れていない。だから、大丈夫なはず。
ラクログダム王国は今、かなり危機的な状況にあるのを察知していたクレマンス。だけど、これはチャンスでもある。ここで手助けすれば、王家に恩を売れる。
そのために、娘をレナルド王子に薦める。彼が、ラクログダム王国の次の王になることが明らかだから。
他の貴族たちは、おそらく今の状況だと二の足を踏むだろう。他国の不穏な空気もあって、誰もが縮こまって警戒を続けるだけ。この先、何が起きるか分からないから。
けれどもクレマンスは、一歩先んじて今のタイミングで動くべきだと考えていた。そうしないと、成功は無い。
「これから、忙しくなりそうだ」
今後の計画を考え、虎視眈々と行動を始めるラフォン家の当主クレマンスだった。
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