第09話 厄払い ※レナルド王子視点

「よーし、これでようやく仕事に集中することが出来るな!」


 カトリーヌとの婚約関係を解消した。予定していた通り、彼女に認めさせて書類にサインもさせた。これで頭を悩ませていた問題が解決して、心機一転して仕事に挑むことが出来る。そう考える、レナルド王子だった。




 本来ならば、ラクログダム王国の最高権力者であるトリステイル王が処理するべき仕事を、現在はレナルド王子が代わりにこなしていた。


 なぜなら、トリステイル王が数ヶ月前に病死してしまったからである。彼の代わりとしてレナルド王子がラクログダム王国を統治していた。近々戴冠の儀式を行って、レナルド王子は正式に王となるつもりである。


 しかし、戴冠の儀式をまだ行うことが出来ないでいた。各地方の治安が、かなり悪化していたからである。


 貴族たちの領地運営の失敗が続き、領民の不平不満が噴出していた。反乱軍を鎮圧するために派遣した兵士たちは、逆に倒されてしまう始末。大量の兵士を投入して、ようやく鎮圧に成功した。だけど、そのために大量の軍費用を消費してしまう。


 レナルド王子は、問題を起こした貴族たちが後始末をするべきだろうと言ってやりたいと思っていたが、放置することは出来ない。王家が介入しなければ解決しそうにない大きな問題だった。


 しかも、反乱が起きたのは一箇所ではない。なぜか同時期に多発して、反乱を鎮圧するために王国軍の出動が何度も繰り返し行われた。更に、軍費を浪費してしまう。


 こんな事は、ありえない。とんでもない不運である。そう感じるレナルド王子。


 問題はそれだけじゃない。王族と貴族の関係も不安定になってきていた。反乱は、貴族が裏で手を回して起こさせたというような噂まで流れて、レナルド王子は貴族に対して不信感を抱く。そんな状況だった。


 挙げ句の果てに、他国との関係も徐々に不穏な空気が漂い始めていた。


 隣国のファルスノ帝国が、軍備増強に積極的だという噂がレナルド王子の耳に届いていた。帝国のターゲットがラクログダム王国に向けられたら、どうするのか。今の混乱したラクログダム王国では、対処しきれるのか。


 ラクログダム王国を取り巻く様々な状況は、最悪だった。


 だけど、レナルド王子は絶望していない。未来に希望を持っていた。今まで上手くいかなかったのは、あの女が居たからだと。


 地方で起きた反乱も、王国の財政難も、貴族や他国の不穏な空気も全て、婚約者のカトリーヌが原因だと確信していたレナルド王子。


 しかし、彼女との関係を断ち切って追い出すことに成功した。もっと早く、あの女との婚約を破棄して王国から追い出すべきだったと、後悔するほどあっさりと。


 レナルド王子は自らの力で、不運に負けないようにラクログダム王国を治めようと努力してきた。だが、実力ではどうにも出来ない事があると早く認めるべきだった。運が悪すぎて、どうやっても王国の統治が上手くいかない。


 ならば、さっさと原因を取り去るべきだった。時間を無駄にしてしまったと考えるレナルド王子。


 レナルド王子が婚約破棄を躊躇ったのは、他にも理由があった。トリステイル王が死に際に、婚約者との関係を絶対に途切れさせるな、絶対にカトリーヌを手放すな、と言っていたから。


 レナルド王子は意味が分からなかった。なぜ、あんな不運な女と婚約させたのか。どうしてトリステイル王は、彼女を手放すなと言ったのか。


 そして、数ヶ月だけ耐えたが駄目だった。このままでは王国ごと駄目になる。判断する時が来た。


 先日、ようやく婚約破棄して彼女との関係を断ち切った。


 不運を払うことが出来た。王国の統治に関して、不安要素の排除を完了した。後は運などに邪魔されず本来の実力を発揮して、ラクログダム王国を統治していくだけ。


 そう考えて、レナルド王子は未来に希望を持っていたのだ。


 レナルド王子は、ラクログダム王国がこんなにも最悪な状況に陥ってしまっている原因がカトリーヌの不運であると、本気で考えていた。




「よし、やるぞ!」


 執務室で、気合を入れるレナルド王子。そして彼は、仕事に取り掛かるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る