第31話 修羅場

「ジュノン。この女は誰だ?」

「ジュジュ。この女は誰?」


 なぜか部屋のあるじであるはずの俺が堅い床に正座させられ、部外者であるはずの青髪とピンクゴールドの少女にベッドから鋭い視線で見下ろされている。

 ごくりと喉が鳴る。


(なんだこれは……浮気を問い詰められる旦那のようじゃないか)


 結婚したことも浮気をしたこともないが、実際にこんな居たたまれない気分なんじゃないだろうか。

 俺は人生初の修羅場にしどろもどろになりながらラヴィアン・ラヴァーズがパーティーメンバーで、エウレカ・エウルシュタインは職業神託神殿からの知り合いであるとそれぞれに説明する。

 すると、鬼っ娘が物怖じすることなくど真ん中ストレート勝負に出る。


「エウレカ。お前とジュノンはどういう関係なんだ?」


 落ちこぼれ期間が長かった弊害から自信なさげな態度をたびたび垣間見せてはいるが、本来のラヴィは強気な性格なのだ。暗黒戦士ダークウォリアーというジョブからも分かるように簡単に引き下がるようなタイプじゃない。

 一方でエウレカも聖姫士クルセイダーという唯一無二のジョブに象徴されるように少々のことで動じる人間ではない。鋼のごとき確固たる価値観が己の中にありそれに対して常に真っ直ぐだ。超絶マイペースとも言うが。

 そんなエウレカがスラッガーのごとき堂々とした態度で返す。



「ジュジュと私はよ」と。



「…………はぁ?」

 俺から素っ頓狂な声が漏れたのは言うまでもない。初耳だ。

「そうなのか! ジュノン!」

「知らん知らん! まったく身に覚えがない!」

 驚くラヴィに俺は全力で首を振る。


「いいえ、知らないはずがないわ。だってジュジュが私に言ったのよ。『俺と一緒に無限迷宮の最深部を目指そう!』って」


「確かに言ったが、それがなんで『夫婦』なんて飛躍した発想に繋がるんだよ?」

「おかしなことはなにもないわ。『無限迷宮の最深部を目指す』のよ? 生涯をかけても成し遂げられるか分からないでしょ?」

「まあな。1000階層以上とも言われている無限迷宮の最深部には未だ誰も到達してないからな」


「つまり必然的に私とジュジュは生涯を添い遂げることなる。それは事実上、夫婦と言っても過言ではない」


「いや、過言だよ!」

 相変わらずのエウレカ節である。俺は慣れているが、初対面のラヴィはさぞ呆れているだろう。ところが、なぜが力強く頷いている。

「なるほど! 確かにエウレカの言う通りだな!」

「なんでやねん!」

 思わず前世のツッコミを炸裂させてしまった。

「そういう貴女はジュジュとどういう関係なの?」

 攻守交代とばかりに今度はエウレカが詰問する。ラヴィはいつになく自信たっぷりの表情で告げる。



「あたしとジュノンはだ」と。



「それも初耳ぃ!」

 最早、恐怖である。己のあずかり知らないところで巨大な陰謀にでも巻き込まれている気分だ。

「そうなの? ジュジュ?」

「知らん知らん! まったく身に覚えがない!」

 怪訝なエウレカに俺は全力で首を振る。

「とぼけるなジュノン。ついさっきお前があたしを抱きしめながら言ったではないか。『俺も同じ気持ちだ』と」

「確かに言ったけど……」


「あの時、私はお前に抱きしめられてこれまで味わったことのない幸福を感じた。瞬間『ジュノンと恋人になりたい』という感情が湧き上がった。それと同じ気持ちということは相思相愛と言っても過言ではない」


 即座に反論しようと試みるが、ラヴィから純真無垢な少女のような青い瞳を向けられ俺は閉口してしまう。


(参ったな……あれ、そういう意味だったのかよ……俺はてっきりパーティー全体に対しての想いを訊かれたのかと……)

 

「なるほど。それはどっからどう見ても恋人ね」

 なぜかエウレカが深く頷いている。

「なんでだよ!」

 俺にはこいつらの立ち位置が分からない。言い争っていたのかと思ったらなぜか互いに共感している。しかし、根本的には対立関係らしく、少女二人の主張が徐々にヒートアップしてゆく。

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