第28話 終わりよければなんとやら

 即座にルルとエドが呼応する。

「わたくしもです! 皆さんが大好きです!」

「ぼくもだよ! みんなのことが大好きだよ!」

 仲間たちの熱い想いが胸を打つ。俺は弱気の自分があまりにも情けなくて自分の頬を自分の拳で思い切りぶん殴ってやった。

「くそったれが……ひよってる場合か。責任を果たせ。ジュノン・ジュリアス」

 俺は短く息を吐いて、気合のスイッチをれると、キングボアの背後に最速で回り込み間髪入れずに〈闇討〉をぶちかます。

 力尽くでボスの敵視ヘイトを取り戻し俺は声を張り上げる。


「エドッ! 指示を頼むッ! 次は必ず止めるッ!」


 結果で皆の想いにむくいる。それがリーダーとしての俺の役目だ。

 邪念を振り払いボスの攻撃を回避することだけに集中する。地面に這いつくばり泥だらけになりながらボスの攻撃を紙一重でかわし続ける。


(無様だと笑いたければ笑えばいいさ! どんな形でもいいから俺はこいつらと一緒に居たいんだよ!)


 きたるべき瞬間に意識を研ぎ澄ましていると、ついにエドから指示が飛ぶ。


「ジュノンくん! 今ッ!」


 待ってましたとばかりに俺は〈影縫〉を迷いなくキングボアに打ち込む。一瞬、ボスの四肢が大地から浮き上がる。

 だが、影の鎖に絡めとられ巨体は即座にグンッと大地に縛り付けられる。衝撃波は発生していない。俺たちは見事、〈キングスタンプ〉を止めてみせた。


「やったッ! 成功だよ! ジュノンくん!」

「よしッ! 〈影縫〉はリキャストに入る! フォローを頼むルル!」

「はいッ! 〈沈黙の呪縛〉いつでもいけます! エドさん指示をお願いします!」

「うん! 任せて!」

「ラヴィ! 〈闇討〉の再使用オッケーだ!」

「了解だ! アビ全開で行くッ!」

 

 雨降って地固まるとはこのことだろう。

 危機的な状況から脱した俺たちの集中力は凄まじく、自分たちのバトルが大勢の人たちに観戦されてるという重圧とは最早、無縁だった。

 それぞれが声を切らすことなく、それぞれが役目を果たし、ボスに初撃以降〈キングスタンプ〉を一度も使わせることはなかった。

 序盤こそバタバタしたが結果的に俺たちは危なげなく10階層ボスの討伐に成功するのだった。


          ◆◇◆◇◆


「――ってかさ! あの不良教師が直前になって迷宮調査員ダンジョンゲイザーの同行を許可しなきゃ俺たちもっと余裕だったんじゃね!?」


 不安から安堵。地獄から天国。激しい感情の揺り戻しでボス討伐後しばらくしても俺の怒り収まらない。

「万が一だ! あのまま俺たちが序盤で全滅してたら! どう責任を取ってくれたんだよって話だ!」

 おそらく復活酔いによって本日中の再戦は絶望的だっただろう。

「ナターシャ先生のことだから、なにか意図があったんじゃないかな?」

 エドが大人なフォローを入れる。ラヴィとルルもお姉さんの顔で「結果オーライだろ?」と「キャンディ舐めますか?」と俺をなだめてくる。

「んだよっ! お前らってあの人に甘いよな!」

「そりゃ先生が声を掛けてくれなければあたしたちは今頃退学だったからな」

「ええ。ナターシャ先生は紛れもない恩人です」

「うん。感謝こそすれ悪く思うことはないかな」


「くっそ! いいよ! 俺一人でもあの人に抗議してやる!」


 ファストダイブで1階層の女神像前に戻ると、俺は先陣を切ってダンジョン入り口に向かう。ダンジョンゲートを潜り抜けると、件の人物が仁王立ちをしている。さっそく文句をぶつけてやろうと口を開くが、



「でかしたぞ! さすがはこのナナミ・ナターシャが見込んだ生徒たちだ!」


 

 我がことのように得意満面な彼女に俺はなにも言えなくなってしまった。

「貴様らよく覚えておけ! こいつらもっともっと強くなるぞ!」

 褐色の彼女は親バカよろしく周囲の冒険者たちにドヤ顔をみせつける。無限迷宮の受付嬢は『10階層を突破したくらいで大げさな』と言った苦笑いである。

「やめろ! 恥ずかしい!」

 最早、怒りは羞恥心に変わっている。俺は親バカ教師の腕をがしと掴んで、城下町へとずんずんと引っ張ってゆく。

「ジュノン。どこへ連れてゆく気だ?」

「決まってんだろ?」

「さては人気のない場所に私を連れ込んで押し倒す気か?」

「は?」

「分かるぞ。バトルの直後ってのは妙にムラムラするよな?」

 神妙な表情で不良教師は頷いている。

「それあんただけだろ!」

「はて? ではどこへ行くというのだ?」

「いつもの食堂で祝勝会をするんだよ!」

「ほう。色気はないが楽しそうではあるな」

「もちろん今夜はあなたの奢りだからな!」

「ま、今日くらいよかろう」

 俺はぐるりと振り返る。茜色に染まる仲間たちが俺の顔を見てにやにやと笑っている。『結局、文句言わないじゃん』と言わんばかりに。

「うるせえ! 早く来いよ! お前ら置いてくぞ!」

 バツの悪さを誤魔化すために夕陽に叫ぶと、三人はくすくすと笑いながら駆け寄ってくるのだ。

 


 

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