第26話 決戦前夜②

 俺たちは急いでルルの水晶球を覗き込む。

「へー、考えたね! 騎士ナイト系の〈シールドバッシュ〉と、魔法系ジョブの〈バインド〉を交互に放って〈キングスタンプ〉を封殺する作戦だね」

「おお! 行動阻害系のアビをタイミング良くぶっ放して敵に大技を使わせないというわけか!」

 当たらなければなんとやらである。

「ふむ! この手があったか! ルルお手柄だな」

 ラヴィがそう猫耳少女の頭をがしがしと強めに撫でる。

「もう、ラヴィさん、髪が乱れてしまいますから」

 口では言いつつもルルの表情は満更でもない。

「どうでしょうか? ジュノンさん? いけそうでしょうか?」

「たぶんいけると思う。ルルが〈沈黙の呪縛〉を覚えたからな」


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◆NAME:ルルーシャ・ルブラン

◇JOB:【呪術師シャーマン

◆LEVEL:11

◇ABILITY:〈楔の呪縛Ⅰ〉〈沈黙の呪縛〉

◆PARTYBONUS:〈敵の攻撃命中率DOWN〉

◇ASSET:〈状態異常耐性Ⅰ〉

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 ルルがレベル10で習得した〈沈黙の呪縛〉はアビを使用不可にする呪印を攻撃対象に少しの間、刻む。

「俺たちのパーティーでも理論上はいけるはず……だよな? エド?」


「うん。アビの再使用時間リキャストタイムを管理しながらジュノンくんの〈影縫〉とルルくんの〈沈黙の呪縛〉を交互でボスに当てれば、水晶球のパーティーと同様の作戦を行えると思うよ」


 エドが丁寧に解説してくれる。ルルが「良かったです」と嬉しそうに猫耳の先をぴょこぴょこと動かす。

「でも、ルル。これ意外とむずいぞ? アビを使うタイミングがシビアだ」

「そうなんですか……?」

「だね。ボスが〈キングスタンプ〉を使う直前にこっちの行動阻害系のアビを当てなきゃ意味がないからね」

 

 ちなみに前世のゲームのようにアビは必中というわけではない。魔法アビも狙いを定めなければちゃんと外れる。

 ただこの世界が面白いのは、外れるリスクがあるからなのか、魔法アビにもクリティカルダメージがあるということだ。


「水晶球をよく見てくれ。ボスが〈キングスタンプ〉を使う寸前に僅かな予備動作があるのは分かるだろ?」


 ルルとラヴィが眉間にしわを寄せる。イマイチよく分からないらしい。

「要するに、この予備動作の最中に〈影縫〉や〈沈黙の呪縛〉を当てれば〈キングスタンプ〉を潰せるってわけさ」

「ふむ。高く飛べなければ衝撃波は出せないということか」

 飛べない豚はなんとやらである。

「だだ問題はタンクとして常に巨大なボスに張り付いてる俺には、近距離すぎて予備動作が正確に把握できそうにもないんだよな」

「むー、それは困ったな」

 一人称のFPSと三人称のTPSの違いみたいなものである。

 水晶球の映像は【迷宮調査員ダンジョンゲイザー】と呼ばれる第三者が撮影しているので客観的視点となっているが、バトル中は主観なのだ。

「だから、アビを発動させるタイミングをエドに任せたいんだが?」

「ぼくに!? そんな大役がぼくに務まるかな……」

 エドが不安そうに眉尻を下げる。

「でも予備動作は把握してるんだろ?」

「うん。それはばっちりだね」

「なら問題ないさ。俺はエドの戦術眼に一目置いてるんだ」

「本当かい? 初めてそんな風に褒めてもらったよ」

「エドは博識だし、バトル中も常に冷静だし、後衛職だから全体を俯瞰して見られるポジションにもいる。エド以上の適役はいないと思う」

 言うならこのタイミングしかないだろうと、俺は皆の顔をぐるりと見回してから、わざとらしく咳払いをして口を開く。


「この二週間、みんなとパーティーを組んでみて分かったことは、エドもラヴィもルルも冒険者として他の連中と比べてまったく遜色がないってことだ。むしろジョブが不遇な分、パーティーに対してエゴが少なく自己犠牲精神がとても強い。それはみんなの最大の長所だと思う」


 照れくさいので俺は視線をあらぬ方向に飛ばす。


「もっとレベルを上げて、もっとアビを覚えて、専用装備なんかも揃えれば今よりもっと活躍できると思う。そうすればジョブの認知度も上がって、みんなを落ちこぼれだなんて言う連中はいなくなるはずさ」


 希望的観測ではない。俺はこの短い期間でそうした可能性を確かに感じている。もちろん忍者ニンジャもそうなって欲しいと願っている。


「みんなはここで終わっていい冒険者なんかじゃない! だから! 明日は絶対に勝とうな!」


 本番を前に自分が思うよりもナーバスになっているのかもしれない。予想以上に熱く語ってしまった。そんな俺を皆は黙って見つめている。

(うわ、みんな引いてるじゃん……リーダーらしいことを言おう言おうとちょっと気張りすぎたか)

 昨日の夜から用意していたセリフだけに余計に恥ずかしい。俺が自己嫌悪に陥りそうになったその時だ。エドがえらく真剣な表情で尋ねてくる。


「ジュノンくん。君をハグしてもいいかな?」


「は? いや、エド、俺にそいう趣味は……」

「ジュノン! あたしにもハグをさせてくれ!」

「ジュノンさん! わたくしもハグしたいです!」

 戸惑う俺にラヴィとルルも勢いよく詰め寄ってくる。

「え? え? ちょ!」

 気づくと俺はおしくらまんじゅうよろしく三人のボディにぎゅーと押しつぶされる。いかにも筋肉質そうなラヴィが意外にも柔らかいとか、ルルが縁側で日向ぼっこする猫のように温かいとか、憎らしいくらいエドからいい匂いがするとか、さまざまな情報が一気に押し寄せてくる。そのせいだろうか。

「お前ら! 一番年下だからって! 俺のことを弄るな!」

 口では強がっているが、胸の奥から込み上げてくる熱いものが外へとあふれ出さないように俺は必死で耐えなければならなかった。

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