第23話 エウレカ・エウルシュタイン

 ピンクゴールドのきらびやかな髪をした美少女を目にした途端、俺が深いため息と共に頭を抱えたのは言うまでもないことだった。

「ねー、人の部屋でなにしてんの?」

の帰りを待ってたの」

 彼女は長い手足をぐーと伸ばしながらベッドから起き上がる。

「天下のが許可なく人の部屋に侵入していいのかよ! スキャンダルになっても知らねーぞ!」


 彼女は同期のエウレカ・エウルシュタイン。年齢は同じく15歳。世界唯一のジョブである【聖姫士クルセイダー】にして、ダンジョン配信界では聖女様と崇め奉られる国民のアイドルである。

 そして、俺ことジュノン・ジュリアスを『ジュジュ』と本人の断りもなく気安く呼ぶ唯一の人物である。

「やめて。ジュジュには聖女様なんて呼ばれたくないわ」

 彼女は白磁のようなつるんとした頬を膨らませ不服をアピールする。見た目は俺より遥かに大人びているのに中身はご覧の通りガキである。

 こうなった場合、不本意ながら俺が折れるのが二人の決定事項だ。

「で? エウレカ、こんな夜遅くになんの用だよ?」

「ジュジュとお話がしたくて」

「いや、そもそも、どうやって部屋のロックを解除したんだよ?」

「ナナミが『この程度のロックなぞ私に掛かればわけない』って」

「くそ! あの不良教師め!」

「ジュジュ安心して。ナナミと一緒に部屋の中を物色したけど、エッチな本は発見できなかったわ」

「ふざけんな! もう帰れ!」

「嫌よ。お話してくれるまで帰らないわ」

 そうエウレカは俺の布団にぎゅっとしがみ付く。

 彼女は一度言い出したらは聞かない。特に職業神託の時からの知り合いである俺には聖女様とあがめられるようになった今でも遠慮がない。

「ジュジュは最近ずっと私を避けてる。声を掛けようとすると、すぐに〈隠密〉でいなくなっちゃう。どうして? 私のことが……嫌いになったの?」

 エウレカが捨てられた子犬のような悲しそうな目をする。

 ズルい奴だ。胸が痛むだろ。


「それは何度も言ってるだろ……俺とお前とじゃ住む世界が違うんだ」

 

 俺とエウレカは同日に世界唯一のジョブを神託された縁もあってすぐに意気投合した。さらに王立職業研究所で数週間ほど一緒に過ごしたことで仲は深まった。王立冒険者アカデミーに入学してしばらくは一緒にパーティーも組んでいた。

 しかし、現状はご覧の通りである。

 俺の忍者ニンジャは落ちこぼれジョブの烙印らくいんを押され、優れたパボに優れたアビを完備する聖姫士クルセイダーの彼女はスター街道まっしぐら。

 

「住む世界? それがなに? 私にはどうだっていいわ」

「お前はな! エウレカが地位や名誉や富、あまりそういうものに頓着がないことは知ってるさ」


「そう。私は自由に生きたいだけ。聖女様だなんてもてはやされ注目され、どこに行っても心が休まる暇のない今の生活にはうんざりだわ」


「でもエウレカはみんなの前ではちゃんと聖女様をじゃないか?」

「だってみんながそれを私に求めるから……」

「なんだかんだ言ってお前はみんなの期待を裏切りたくないんだろ?」

 ピンクゴールドの彼女がこくりと頷く。

 人々の期待に応えたいと願うエウレカのマインドは、彼女が選ばれるべくして聖姫士クルセイダーに選ばれたとしか俺には思えなかった。


「エウレカには実力があって華もある。パーティーに求められ、人々からダンジョンでの活躍が望まれている。まさしくそれがお前の運命なんだ。俺とは違う。住む世界が違うってのそういうことだ」


 元リーマンの俺が「それが世の中ってもんだ」と努めて割り切ったセリフを吐いた直後だ。

「でも! ジュジュ! このままじゃ退学になっちゃうじゃない! アカデミーからジュジュがいなくなるなんて私は嫌よ!」

 エウレカが珍しく声を荒げる。

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