第22話 平凡で有り触れたけれど充実した日々

 俺たちは午前中アカデミーで座学の授業をこなし、午後は陽が落ちるまでひたすらダンジョン攻略に勤しむという日々を過ごす。

 退学期限の学期末まで残り一週間を切ってもそのルーティンは変わらない。

 残念ながら宝箱を幾つか開けたが目ぼしいドロップは未だない。低階層なので致し方がないだろう。例に漏れることなくレア度の高い装備品は、深い階層でないとなかなかドロップしないものなのだ。


 特に通称『金箱』。【黄金の宝箱ゴールデンチェスト】と呼ばれる専用装備や限定装備などのレア装備確定の宝箱は強気なソシャゲのURくらい滅多にお目にかかれない。

 仮に金箱を発見できたとしても【番人ワーデン】と呼ばれる階層の魔物より遥かにレベルが高い強敵を倒して鍵をゲットしなければならないのだ。


 結果として経験値効率に優れた魔物を、お決まりの戦術で地道に狩り続けるだけの代り映えのしない日々だった。

 だが、俺たちはそれをつまらないとは感じていない。迫りくる期限に焦燥感や危機感を抱きつつも、むしろ毎日が充実していた。

 そりゃそうだ。落ちこぼれジョブの俺たちは、ダンジョン攻略どころかつい先日までパーティーすらまともに組めなかったのだ。それが今はどうだ。

 授業が終わるとなにも言わずとも自然と集まり、ダンジョンでは互いに助け合い切磋琢磨し、街の食堂で夕食を取りながらその日一日のことを熱っぽく語らう。そんな仲間がいる。こんな幸せがあるだろうか。

 

「毎日のダンジョン攻略のお陰で気づけたんだけど、ぼくの持続回復魔法にもメリットはあるんだよね。他のヒール系魔法アビよりもマナ効率が格段に短いし、戦況を先読みして使用すればしばらく手が空くしね」

 エドは当初よりも自然術士ドルイドに手応えを感じているようだ。

 

「あたしはもっと強い武器が欲しい。暗黒戦士ダークウォリアーの真価を発揮するには短所を補うよりも長所を伸ばすことを優先すべきだと思う。皆には負担をかけることになるかもしれない。だが、それに見合うだけの火力を叩き出してみせる」

 ラヴィにもエースとしての自覚が芽生えつつある。


「わたくしもっともっと皆さんのお役に立ちたいです。そして活躍することで呪術師シャーマンのマイナスイメージを少しでも払拭できればと思います」

 あのネガティブだったルルも前向きだ。

 

「無限迷宮は実力社会なのに意外と保守的だよな。強けりゃセオリーなんて関係ないじゃん。落ちこぼれのマイナージョブばかりのパーティーだったとしても、知恵と工夫と努力で戦えるんだってことを証明してやろうぜ」

 もちろん、俺も前のめりだ。

 

 自分で言うのもなんだが、今の俺たちは理想的なパーティーだと思う。

 どん底を知る者同士の集まりであるためエゴが少ない。パーティーを組めることのありがたさを知っているからこそ互いを尊重し合える。なによりも落ちこぼれのマイナージョブという共通点が強い絆に繋がっている。

 そりゃまったく自己主張がないわけじゃない。くだらないことで言い争うこともある。主に俺が一人でブチ切れているのだが。

 おそらく今後、意見が食い違うことはあるだろう。口論になることもあるかもしれない。ただ全体として健全な関係が築けているように感じる。

 少なくとも、相手の意見をないがしろにするような仲間たちではないからだ。


          ◆◇◆◇◆


 満点の星々に見守れながら俺は帰路につく。クビにされた数々のパーティーでの苦い思い出に苛まれつつ、一方で今のパーティーと出会えた幸運を噛みしめながら。

 自室の扉のノブを手を添えてロックを解除する。

「……あれ?」

 全身が強張こわばる。おかしい。すでにロックが解除されている。

(ひょっとしてロックし忘れた……?)

 いや、そんなはずはない。男子学生寮はビジネスホテルよろしく扉を閉めれば自動で扉がロックされるシステムだ。

 息を殺しておそるおそる扉を開ける。部屋の内部には暗闇の世界が広がっている。俺は入り口脇にある【照明魔具ライティングマグ】にマナを流し込む。


 ちなみに魔具マグとは前世での『家電』のようなもので、電気の代わりにマナで作動する機器全般を指す。その中心部には無限迷宮の魔物からドロップする魔核コアが媒介として使用されている。

 

 部屋に明かりが灯る。瞬間だ。俺のベッドに横たわる人物を発見する。

 彼女は気だるげなまなこで大きなあくびをしながら告げるのである。

「待ちくたびれたわ。ジュジュ」と。

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