第21話 傾向と対策

 すると、閃いたとばかりにルルが手を叩く。


「ああ! つまり! 先生がパーティーを組むように進言してくださったのも、わたくしたちならきっと上手く行くという確信があったからなんですね!」


 箱入り娘のお嬢様に経験豊富なダークエルフがドヤ顔で親指を立てる。

「ルルーシャ。正解だ」

「嘘つけ。あんたにそんな深い考えがあるかよ。どうせただの思いつきだろ?」

「ふん。それのなにが悪い?」

「うわ、開き直った!」

「お前たちは手をこまねいていても学期末に退学なる運命であろうが?」

「それはそうだけど……」

「ならば行動を起こすしかあるまい? 私がその切っ掛けを与えてやったのだ。感謝しろジュノン。そしてナナミ先生大好きと言え」

「言うか! 酔っ払い!」

 いつの間にかナナミ先生の前のテーブルは空ジョッキで溢れている。


「もし仮にあんたに感謝するとしても、10階層を無事に突破して退学を免れた後だ。まだ俺たちはなにも成しちゃいないんだ」


 俺はリーダーとしてあえて現実的な言葉を口にする。

「なんだ自信がないのか? ダンジョン攻略初日にこうして食事に来るくらいだからてっきり順調なのだと思ったのだが?」

 相変わらず目敏い人だ。

「まあ、このジョブ構成でどうにか戦える目処は立ったよな?」

 三人の顔を見回し確認する。

「ほう! ならばもう突破したも同然ではないか!」

「んなわけあるか。10階層のダンジョンボスを倒すにはまだ足らない点が多いと俺は感じてる」

「ふーん、例えば?」

「レベルの底上げは絶対に必要だと思う。10階層のボスは『全体攻撃』持ちだからさ。突発的な事故死に備えて後衛組のライフや防御の基礎値を上げておきたい」

「ならば学期末ぎりぎりまでレベルアップにいそしめば問題なかろう」

「もちろんそうする。でも同時に装備品のアップグレードもしたいんだよなぁ」

「宝箱から専用装備をゲットすればよかろう」

「簡単に言ってくれるよな。そりゃドロップすりゃ最高だけど……これはばっかりは運だからさ」

 棋士のような険しい表情で腕組みする俺にナナミ先生がほくそ笑む。


「なんだ? ちゃんと見えてるじゃないか? 自分たちの課題が」


 言われて気づく。食えない女教師に俺は誘導尋問されていたことに。

 前世の30数年とこの世界での15年。単純計算で俺は50年近い人生を生きているわけで、同世代に出し抜かれることはそうそうないだろう。

 しかし、相手は100歳を超える百戦錬磨のダークエルフだ。悔しいが役者が違うということらしい。


「ジュノンくんをリーダーに選んで正解だったね」

「ジュノンさんがこんなにもわたくしたちのことを考えてくださってるなんて」

「ジュノンとなら10階層突破も夢ではないと思えるな」

 

 ところが、思いのほか皆が好意的なので、釈然としない気分は一瞬して消え去る。それどころか手放しに褒められる経験に乏しい俺は顔のにやけが止められない。

「おうおう。ジュノン。嬉しそうではないか」

 案の定、ナナミ先生にいじられる。

「は? 別に」

 咄嗟に否定するが、焼け石に水だった。

「くくく、無理するな! 素直になれ!」

「ちょ、やめろって!」

 俺は再び酒臭い女教師に髪の毛をもしゃもしゃとかき回されるのである。そして、再び仲間たちから大きな声で笑われるのである。

 だから俺はこれが一番年下の役目だと末っ子ポジを渋々受け入れるのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る