第17話 鬼の耳にもピアス
「ラヴィ? どうした?」
新発売の玩具に釘付けになる子供みたいにラヴィは『とある装備品』の
札を凝視する。【深海のピアス】と表記されている。それは見る者の心を落ち着かせる深い深い蒼色をした幻想的な片耳ピアスだった。
「おお!
「ふむ。しかも共通装備だ。これならジョブ関係なく装備できる」
「いいじゃん。ラヴィ。落札しろよ」
「いや、まあ、そうしたいのは山々なのだが……」
ラヴィの歯切れが悪い。俺は理由をすぐに理解する。
「あ、マジか。即決価格が1000万ルナか……」
金豚の臨時収入2000万ルナを四人で山分けにしたのだが、ピアスの落札価格はその二人分に相当する。
ならばと俺は提案する。
「よし、ラヴィ。俺が半分出してやる」
すぐさまラヴィが角頭を横に振る。
「ダメだ! それはジュノンの分け前だ。
鬼っ娘は意外にお堅いのである。
「なら問題ない!」
だから俺は強気でごり押す。
「これは
「いや、だがジュノン……」
「悪いと思うなら、その分、明日からアビ全開でモンスターをがんがん倒してくれりゃいいさ」
とにかく俺は渋るラヴィを「良いのか? 希少な
「むぅー、ジュノン覚えてろよ」
まんまと買わされたことに不服そうなラヴィだったが、オークション管理局の窓口でピアスを受け取ると青い前髪を弾ませ頬を
「ふふふ……ジュノン。ありがとう。この借りは必ず返す」
大切な宝物でも手に入れたみたいにラヴィはピアスを大事そうに抱えている。
「おう。出世払いでよろしく」
ラヴィがさっそくピアスを耳に装備する。しかし「むむ」と
「貸せよラヴィ。俺がつけてやる」
女の子にピアスを付けるなんて我ながらちょっとキザったらしいと思うが、彼女がピアスを装着しているのを俺も早く見てみたいのだ。
「あ! その! じゅ、ジュノン! 平気だッ! 自分で付けられるッ!」
ラヴィが慌てている。律儀な鬼っ娘だ。遠慮しているのかもしれない。
「いいから付けさせろよ。半分は俺のもんだし構わないだろ」
ラヴィに気を遣わせまいと謎理論で押し切ってやった。
「よし、装備できた。いいじゃん。ばっちりじゃん」
深海を思わせる幻想的なピアスは青髪の彼女にとてもよく似合う。ところが、ラヴィの様子がおかしい。耳の先を真っ赤にして小刻みに震えている。
「え? ラヴィ? 怒っている?」
俺は一瞬にして青ざめる。
(うわ、やっば。やらかした……)
ラヴィは遠慮をしていたのではなく、本気で拒絶していたんじゃないのか。例えば
「――違うよ。ジュノンくん。ラヴィくんは怒っているわけじゃないよ」
耳元でエドが囁く。不意を突かれた俺は「うわ!」と飛び跳ね後ずさる。
どういうわけか背後でエドとルルが授業参観の保護者のごとく微笑ましげに俺のことを眺めている。
「エド、どういうことだよ……?」
「実はね、
「え? マジで?」
「うん。マジでマジで。いやー、ジュノンくんも
「ええ。出会って二日でプロポーズするなんてジュノンさんは大胆です」
「からかうな! お前ら目が笑ってんぞ!」
恥ずかしさに顔が熱くなる。俺はすぐさまラヴィに弁解する。
「ラヴィ! これは不可抗力だ! 俺はなにも知らなかったんだ!」
「あ……ああ……分かってる……あたしはちっとも気にしてない」
言葉とは裏腹にラヴィは指先で青髪をねじねじと弄りながら頬を赤らめている。
「嘘つけー! めっちゃ気にしてるじゃねーかよ!」
「し、仕方がないだろ! 異性からピアスをつけてもらうなんて初めての経験なんだ……あたしにだってそういう憧れはある!」
「やめろよ! 乙女を出すな! 変な空気になるだろ!」
「無理を言うな! あたしは16歳の娘だ! 乙女を出して何が悪い!」
「いや、というか乙女を出すってなんだそれ!」
「あたしが知るか! ジュノンが言い出したんだろ!」
お互いテンパってるからいちいち語気が強い。そんな俺とラヴィを見かねたエドとルルが間に割って入ってくる。
「はいはい。二人とも落ち着こうね」
「ええ。とりあえずオークション会場から出ましょう」
気づくと周囲の注目を集め始めている。俺たちは逃げるようにオークション会場から退散するのだった。
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