第16話 ジョブ専用装備とは?

「いやいやいや、ちょっと凄すぎて引くんですけど……」

 眼前のテーブルに積まれたルナ金貨の山に俺の顔面は引きつっている。まさにダンジョンドリーム。それは郊外なら小さな一軒家を購入できる大金だった。



 金豚を討伐して地上に戻った俺たちは宝くじの高額当選者のごとく心臓をバクバクさせながら、ダンジョン入り口に併設してある【王立冒険者ギルド】に駆け込む。

 そこで金豚を狩った旨を小声で伝えると、受付嬢の顔色が一変し、拉致される勢いでギルド最上階にあるVIPルームに通されることとなる。

 豪奢な応接室でいかにも高級そうな紅茶を落ち着かない様子ですすりながら待っていると〈アイテム鑑定〉のアビを持つ【鑑定士アプレイザー】の女性がやってきて、金豚の肉や魔核コアなど素材を丁寧に吟味する。


「間違いなく本物のゴールデンピッグの素材です」


 そう女性は眼鏡をくいっと持ち上げる。

「即金ならばこれで。2000万ルナあります」

 札束でビンタするみたいに女性はルナ金貨が積み上がった皿をどんとロウテーブルに置く。見たこともない大金に俺がごくりと喉を上下させたのは言うまでもない。


「素材を【冒険者オークション】に出品されるなら少々時間はかかりますが、さらに金額は上乗せされるはずです。最低でも3000万ルナはくだらないでしょう。どうされます?」


 話し合いの結果、俺たちはギルドに即金で買い取ってもらうことにする。

 退学の瀬戸際となる学期末まで猶予がないこともあり、貧弱な装備品を少しでも強化するためにも物入りなのだ。

 豚に真珠ならぬ落ちこぼれに大金の状態で、俺たちはギルド3階にある冒険者オークションに向かう。

「こら。ジュノン。警戒しすぎだ。逆に怪しまれるぞ」

 ラヴィに耳打ちされ気づく。ダンジョン攻略終わりの冒険者で溢れかえるオークションフロアで、元しがないリーマンの俺はあからさまに挙動不審だった。

 ちなみに冒険者オークションは期限内に最も高い金額、もしくは出品者が設定した即決価格を提示した冒険者がアイテムを落札するという馴染みのあるシステムだ。


(前世のネットオークションと要領は一緒だな)


 猶予のない俺たちは今日ないし明日あたりが落札期限の装備品を物色する。しかし、予想通り収穫はなし。

 俺たちは顔を見合わせ首をすくめる。

「やっぱりぼくたちの専用装備や限定装備の出品はないよね」

「これが俺たちマイナージョブの辛いところだよな」

「ふむ。共通装備はあるにはあるが、値段の割に性能面で劣るからな」

「逆に性能に優れた共通装備は破格すぎて手が出ないよね」

 専用装備とは単体のジョブ専用で、限定装備とは複数ジョブ限定で、共通装備とは全ジョブ共通の装備品を意味する。


「えーっと、わたくしたちのジョブ専用装備や限定装備は自分たちで宝箱を開けて入手するしかないのでしょうか?」


「ふむ。基本的にはそうだな。稀に特定のモンスターを狩るとドロップすることもあるらしいが」

 小首を傾げるルルにラヴィが答える。さらにエドが補足する。

「無限迷宮の宝箱からジョブ専用装備や限定装備がドロップする場合は、必ずパーティーメンバーの誰かのジョブに紐づけされるらしいよ」

「それとジョブの総数によっても入手難易度は違ってくる」

 俺も参加する。


「例えば絶対数の多い【剣士ソードマン】なんかは単純に宝箱を開ける回数も多い。比例して専用装備のドロップも多くなる。必然的に出品数も増えるから、オークションで専用装備をゲットすることも不可能じゃないのさ」


「ふむ。絶対数の少ない暗黒戦士ダークウォリアーの専用装備はそもそも出品自体がない。大剣などの限定装備を狙うのが現実的な選択と言えるな」

「なるほどー、そういう仕組みでしたか。マイナージョブのわたくしたちにはあまり縁のない場所のようですね」

「でも万が一があるし、ダンジョン終わりにオークションには毎日通う感じで」

「うん。それがいいね」

「まあ、ただ今日のところはギルドの購買部でポーションとか携帯食料とか解体用の自動オートナイフとか、必需品を補充するくらいでいいんじゃね?」

「はい。では、そうしましょう」

 明日は明日の風が吹くと、さっぱりと気持ちを切り替え俺とエドとルルは1階の購買部へ歩き出す。ところが、ラヴィだけが足に根が生えたみたいに動かない。

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